美味いメシに舌鼓を打って。
軽く飲んで。
久しぶりの、ふたりっきりの時間。
ここ最近は、お互い仕事が忙しくて、なかなかふたりでゆっくりすることも出来なかった。
ホントはさ?付き合いたてってもっと、毎日でも会いたいって頃じゃん?
レギュラー番組の収録の時とか、仕事では会うよ?
会うけど、そういうのとはやっぱ違うでしょ?
翔さんは、結構マメで、時間を見つけてはメールくれたり、電話してくれたりもする。
ロケ先で撮った写真なんかをくっつけて送ってくれたりしてね。
俺も、返信しますよ?
流石にそこは、めんどくさがらないよ。
そんなふうに過ごしてはいたけど、
やっぱり、二人で会うのは久しぶりだったから、さ。
録画したテレビなんかを見つつ、飲んでたんだけど。
つまみに伸ばした手が、ちょっと触れたり。
グラスを置くタイミングが、揃ったり。
ソファーに座るときの、距離が。
ちょーっとづつ、狭くなって。
肩が触れて。
何となく、会話が止まる。
目が合って、
どちらからとも無く、手が伸びて…。
そのまま、唇が重なった。
優しく…ふわっと重なる唇。
ぎゅっと押し付けられて…。
でも、時間にして、5、6秒かな…。
ちゅっ、と音を立てて、その唇はすぐ離れていった。
ぎゅっと抱きしめられて、俺の耳に吐息がかかる。
少しアルコールの匂いがする、熱い吐息。
「ニノ…。好きだよ…。」
「ん…。俺も…。」
俺も、翔さんの肩に顔を埋める。
アルコールと、タバコの匂いに混じって、ふわりと香る翔さんの匂い。
お互いの鼓動が、くっついた胸越しに響いている。
ドキドキしてる……。
カラダの奥が、鼓動と一緒に熱くなる……。
暫く抱きしめあったあと、翔さんは体を離して、微笑んだ。
「じゃあ、そろそろ帰るわ。」
そう。
いくらうちで飲むようになっても、ここまで。
抱きしめられて、軽いキスをして…それだけ。
外で飲んだあとも、翔さんはうちまで送ってくれる。
女の子じゃないんだからさ、送ってくれなくてもいいよ、って言うんだけど、
『俺が、送りたいんだ』
って言うからさ…。お言葉に甘えて送ってもらってる。
だけど、そんな時も…必ず、玄関先で帰っていく。
タクシーわざわざ降りて、玄関まで来てんのに、だよ?
ぎゅっと抱きしめられて、せいぜい、軽いキス。
中学生じゃないんだからさ…。
だけど…。
「何で?」って俺から聞くのも、なんだか…。
何かが邪魔をして聞けなくて。
何か…がっついてるみたいに思われても、やだし…。
泊まってってよ、なんて…。
帰る、って言ってる翔さんを、引き止めるようなこと、言えない。
言えなくて…。
それで今日も俺は、帰っていく翔さんの背中を玄関で見送る。
パタン、と静かにドアが閉まるのを見届けてから、俺は深いため息をついた。
なんだろ…。
なんなんだろ。
翔さんは…。
付き合ってる、とか言っても、そういうつもりで付き合ってる、わけじゃないんだろうか。
好き、って言うのも、やっぱり、友情の、好き、で。
やっぱり……。
女の子じゃない俺じゃ……ダメだったのかな。
キスは…正直、誰とでもできる。
俺の場合はね?
仕事で、ドラマや映画の撮影ならもちろん、なんならバラエティーで芸人さんとしたことだってある。
あるから…。
だから、なんだか、
実際、キスは出来てもそれ以上は……って思ったのかな、なんて。
「翔さん……」
何でだろ…。
もう一度、深いため息をついて、
…最近は、そんなことばっかり、考えてる。