「どうせ買うなら一個づつにしたら良かったのに」
「だって俺、ちょっとでいいもん。それに、一個なら、バレた時に翔やんのせいにできるでしょ?」
「お前なぁ……」
くすくす笑い合う。
初めて会った時は、ああ、こいつとは友だちになれなさそう……なんて思ったほど、
翔やんは見た目はチャラい。
金色に近い茶髪に、ピアスで、アクセサリーもジャラジャラ。
だけどさ。
話してみたら、意外と真面目で。きちんとしてる。
真っ直ぐで、正義感も強くて。友だち思いで。家族思いで。
いいやつなんだ。
すごく……、いいやつなんだ。
翔やんの綺麗な横顔。
吐く息が、ぽわんと白くうかぶのを、ぼんやりと眺めながら……、口を開いた。
「で、どうなの?遠距離の彼女とは?」
「んー、最近なかなか会えてない。お互い、いろいろ忙しいしさ。」
「だって翔やん、卒業したら……地元帰るんでしょ?彼女、待ってるし」
「んーー、ちょっとわかんなくなってきた。なんかこんだけすれ違うとさ……。こないだも、直前で会う予定キャンセルになって。なんかさ……、ほんとに待っててくれてんのかな、って……。って、ハハッ、何言ってんだろ俺。ごめんな」
そんな女、別れちゃえよ。
絶対気持ち、離れてんだって。
ドタキャンだって、きっと他に男がいるんじゃないの?
遠距離なんて上手くいくわけねーよ。
どす黒い思いが、もやもやと渦を巻いて俺の中に立ち込めるけど……。
飲み込んで。
溜め込んで。
俺は、笑顔をつくるんだ。
「なーに言ってんの。翔やんらしくないじゃん。彼女、信じてやんなくてどうすんのよ」
「んー、そっ、かな」
「そうだよー。頑張んなよ!」
バシン、って背中を叩いてやると、翔やんは「イテッ」て大袈裟に言った。
「次の連休は、帰るんでしょ?そんときちゃんと話しなよ?」
「うん……そうだな」
ありがと、って笑う翔やんの、顔に……
ドキッとするのも、胸が痛むのも、気のせいだ。
きっと夜のせいだ。
夜ってさ。
いつもと違う自分だったりするから。
思い出せ。
思い出せ、俺。
彼女のこと、話す翔やんの、顔。
デレてんじゃねーよってからかわれて赤くなって。
連休が近づく度に、やっと会えるってソワソワして。
夜、甘い声で電話してたのだって、知ってる。
知ってる、から。
だから、俺は…………。
ふっ、て息を吐いて、立ち止まる。
少し先を歩いた翔やんが、どうした?って振り向いた。
俺を見て、眉を下げて笑って。
「やっぱり……、連休、帰るのやめようかな」
「……なんで?」
「んーー。
なんかさ、帰ってアイツと会うよりも、こっちでニノと遊んでた方が楽しいから」
「……何言ってんの」
「……ダメ、かな?」
「別に、いいけど」
顔が熱い。
やばいじゃん。こんなの……バレちゃう。
バレちゃうよ。
「もう!いいからはやく戻ろう?みんな待ってるよ?」
振り切るように早足で歩く俺に、翔やんはすぐ追いついて、
隣に並んで歩いた。
「なあ、どこ行く?映画でも見てー、それから冬物とか見に行かね?」
「俺、家でゲームするから」
「なんだよ、そんなのいいだろー?」
「やだよ、寒いもん」
「行こうぜー」
夜の住宅街に、俺たちの声が響く。
吐く息は白いのに、顔が熱くて。
表情が見えない夜の暗さに感謝した。
きっとこれも、夜のせい。
ちょっと浮かれただけ。
明日になったら覚めるかもしれない夢を、今だけは、って噛み締めながら、
俺は、早歩きで進んだ。
夢が現実になるのは、また別の話。
おしまい。
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ハタチを過ぎたばかりのころのおふたりが、夜中にお酒を買いに行っても、
可愛すぎて売ってもらえないのでは!
と言われたお話。笑
恋が始まる直前あたりがいちばん好きです。
ていうか、片思い、いいですよね!
ニノちゃんには、片思いが良く似合う。
(富士には月見草が良く似合う、みたいに言う)
お題を頂いて書いたお話でした。
お題は「ビール」
ビールより肉まんがメインになってしまった。笑
読んでいただきありがとうございました!