side N








夜ってさ。

なんか感傷的になるよね。

昼間、考えないことに悩んだりとかさ。

夜書く手紙はなんだかポエムみたいになったりとか。

翌朝見て、こっぱずかしくて身悶えちゃったり、さ。









ピンポンピンポーン


無駄に明るいトーンのチャイムが、店内に響く。


深夜のコンビニは、煌々と明るく街を光らせて建つ。


他に客もいない店内は、流れるBGM以外はしんとしていて、
店員も暇そうにレジの奥で欠伸をしていた。



「とりあえず、ビールだろ?それから……何飲むんだ、あいつら」


入口から、まっすぐ奥へ、ドリンクの棚へ。

俺もあとから付いていく。





「ビールとー、チューハイとー、ん、ワインもあるな。どーなんだろ、コンビニのワインって」


独り言言いながら、カゴに入れていく。


「なあ、ニノは何飲むの」

「俺、何でもいいよ。翔やんは?」

「俺は、とりあえずまだビールでいっかな」

「じゃ、俺もー」



ドアの取っ手に手を伸ばす。
ドリンクコーナーのドアはしばらく開かれていなかったのか、思いのほかぴったりと張り付いていて、軽い力では開かなかった。


「お前、大丈夫かよー」

にやり、笑われて。



「俺の筋肉は女子以下なの。知ってんじゃん」

「しょうがねえなー」


横から手が伸びてきて、俺の目の前で、ぐっ、と腕の筋肉に力が入るのが見えた。
腕に浮かんだ筋が男らしい。



「ビール、ビールぅ」

鼻歌交じりにポイポイと入れていくから、すぐにカゴはいっぱいになった。



「重っ!ったく、買い足し行ったほうがいいんじゃね、なんて言わなきゃよかった!」

「ジャンケンで負けたの、翔やんでしょ。だから俺がついてきてやったんじゃん」

「筋肉女子以下には、頼れねーから。どーせ、持たねんだろ?」

「ふふ、バレてます?」



ブツブツ文句言いながらレジへ。


「どーせ割り勘なんでしょ?肉まんでも買っちゃう?」

「え?」

「ふふ、バレないよきっと。」



驚いてるすきに、レジのお兄さんに、すいませーん、あと、肉まんいっこ!って言っちゃった。









同じ大学の、ゼミが同じ仲間で、時々集まっては誰かんちで飲んだり、飯食いに行ったり、そんなのが始まったのはいつからだっただろう。


部屋を提供するやつを除いてジャンケンして、買い出し、調理、片付けなんかの担当を決める。


俺は……本当はそんなふうに集まってなんかするよりも、家でひとりでのんびりした方が良いし、
最初はそう言って断ってたんだけど。



翔やんがさ……。
ニノもおいで、って誘ってくれて。
あんまりしつこいからさ……。



大学で知り合った翔やんとは、何となく気があって、時々つるむようになった。
ゼミにも誘われて、飲み会も誘われて。


なんとなく、いつも一緒にいる。






月明かりの中、ぷらぷらと歩いて帰る。


空気がキンと冷えて、冬の匂いのする、しんとした夜の住宅街を歩くふたりの影が、道路に伸びている。

吐く息の白さが、街灯に浮かんでた。


荷物は、結局翔やんがほとんど持ってくれて、俺は軽いツマミ類と、さっきの肉まん。

半分こに割ったら、ほわ、って湯気が出た。


「ほら、半分あげる」

「サンキュ」


行儀悪いけど、歩きながら食べる。
翔やんは、ほんの3口程度であっという間に食べ終えた。