週末の、終電の中はそれなりに混んでた。
でも、ぎゅうぎゅうという程でもなくて。

通路に並んで立って、吊革を握る姿が、ガラスに写っている。
明らかに困った顔のオレと、無表情のニノが、ガタンゴトンと揺れてた。
はぁ……なんでこんなふうになっちゃったんだろ。
前はさ、
電車の中でもくだらない話して、笑って。
ううん、なんにも喋ってなくても……オレたちのあいだにこんな空気が流れることなんかなかったのに。

せっかく、久しぶりに会えたのに。







ニノが降りる駅が近くなってきた。
「じゃあ……」
小さく呟いて、ちいさく手をあげて、ドア付近まで移動するのに、ついて行って。
ドアが開いてニノが降りたから。
オレも、降りちゃった。



唖然とするニノ。
ドアが閉まって、電車は出ていった。

「え、今の終電だよ?なんで降りてんの」

「あ、つい……」

「つい、じゃねーよ、なんで一緒に降りてんのよ」

「だって、だって!このまま別れたらぜったいまたそのまんまじゃん。
オレ、ニノとこのままなんてやだよ。だから!」

思わず叫んだオレを、通りすがりの人たちが怪訝そうに見ていく。

はっ、と口をつぐんだオレを見て、ニノがため息をついた。


「わかったよ……。じゃ、俺んち、くる?」












久しぶりに訪れたニノんちは、あの頃のままだった。
いや、正確に言うと、違う。
あのころと同じワンルームマンション、同じ部屋だけど……あちこちに、ダンボール箱が積まれていて。

「もうすぐ、引っ越すんだ。事務所が、用意してくれて」

「そう、なんだ……」

「散らかってるけど、寝るくらい出来るでしょ」

そう言いながら、あの頃みたいに……オレが泊まってたときみたいに、毛布やなんかをソファーの上に出してくれる。
ニノは腰が悪いから、相葉さんはソファーね!っていつも有無を言わさずに、ソファーで寝てたっけ。
二人がけのちっちゃいソファーだから、オレが寝ると足がはみ出ちゃうんだけど、そこにちっちゃくなって寝て……いつも、体が痛くなって文句言って……


懐かしい思い出が溢れてくる。









そんなオレのことなんか振り向きもせずに、ニノは淡々と寝支度を整えて、お風呂の準備をして、タオルを持ってきてくれて。
はい、着替え、って渡してくれた下着や部屋着は、あのころ使ってたやつで……。



「丁度いいからさ、それ持って帰ってよ」

って言う小さな背中を、思わず後ろから抱きしめていた。






「ちょっと……なに?」

「ニノ……。引っ越すの?」

「うん」

「それでもう、こんどは完全に、オレと連絡絶とうと思ったの?」

「……。」

「ごめん、ごめんね、ニノ。オレ……あのときびっくりしちゃって、どうしていいかわかんなくて」

「もういいよ、昔の話じゃん。忘れろって言ったでしょ。あんなこと言われても困るよな。ホント、もういいから」


早口で言ってニノは、オレの腕のなかから抜け出した。


「もういいから、風呂入って早く寝なさいよ。俺は朝入るからさ……」


そんなこと言ってベッドに入ろうとするニノの手首を掴んだ。
華奢な手首。
ぐっと引っ張ってこっちを向かせて、肩をつかむ。


「ニノ!オレの話を聞いてよ!
オレ、あのあといっぱい考えて……いっぱい悩んで……。
考えれば考えるほど、ニノの事ばっかりになって、どんどん意識しちゃって……。
どうしていいのかわかんなくなって、そんなんしてたらなかなか会えなくなって。
ニノはいつから、オレのこと……って思うとさ、最初はびっくりしただけだったけど、
だんだん、ずっと隠して思っててくれたのかって、嬉しくなって…。今は?いまはどうなのって気になって。
でも、聞けなくて……毎日毎日、そんなことばっかり考えてて。
会いたくなって、会いたくて……。
ニノの顔ばっかり思い浮かべて。

もう!どうしてくれんだよ!
オレの気持ち振り回して、そんでそのまま消えるつもりだったのかよ!」






一息に叫んだ。

ニノは、一瞬きょとんとして……

それから、ぶわっと、赤くなった。


「なんだよ、逆切れかよ……」

って呟いた声は、消えそうに小さくて。






オレは、ぎゅっとニノを抱きしめて、耳元で囁いた。

「なに?きこえない」


「だって……、だって相葉さん、そんなふうに言ったら、まるで……」




おれのこと、すきみたいじゃん




って、言った声は、もっと小さくて、
ちゃんと聞きたくて、もっとぎゅっと抱きしめた。


「だから、聞こえないって」

「……相葉さん……。え?ほんとに……?」


ニノの目に、涙の粒が溜まっていく。
今にも零れそうになったそれを、オレは思わず唇で掬った。



とっさにぎゅっと目を閉じる、と、ぽろんと1粒こぼれ落ちて。


小さく震えるその姿が、たまらなくいとおしくて。


「すきだよ」

って、もっと小さく囁いた。



「聞こえない……聞こえないよ、相葉さん」

「じゃあ、もっとくっつこ……」


もう、言葉にならなくて。
二人でそのまま、一番近くで想いを確かめあった。













「ねえ、この荷物はこっちでいいのー?」

「大丈夫ー、ありがとね、みんな」


ニノの引越しに、みんなで手伝いに来た。

前のワンルームとは全然違う、広い部屋にびっくり。


「さすがスターは違うよなあ」

「もう、おーちゃんやめてよ、そんなんじゃねえって」



あらかた片付いて、時間もいい時間になって……ご飯でも行こうって話になって。


みんなでぞろぞろと家を出る。


3人が歩き始めた、うしろをついていくオレに、ニノが並んだ。


「これ、持っててよ」

って……手に、何かを握らせた。

「え、コレって、」

開いた手のひらに、鍵。

「また終電みおくっちゃったらさ、使ってよ」

そっぽ向いてそんなこと言うから。
鍵、持ったまんまニノの手を握った。


「痛いよ、刺さる!」

「ごめんごめん、嬉しくて……」

「相変わらず力加減おかしいのよアンタ……」


前を歩く3人が、オレたちの声に振り向いた。


「はいはいそこー。路上でイチャイチャしないー!」

「全く、やっとくっついたか……長かったな」

「何年かかってんだよ」

「だよねーー」



言い合う3人に追いついて。
今日は祝杯だなって。
とりあえずビールの人ー!はーい!って手を挙げて。

笑う5つの影が、夕方の道に伸びた。









(おしまい)














__________


タイトルをつけるのが苦手です。
なので、このタイトル、本当は長編用に取っておきたかったのに、どうしても困ってしまって使ってしまい。
いま、後悔しているという。笑



タイトル、どうしたらつけられますか…。



という悩みを抱えつつ、



好きな設定なので、もう少しちゃんと書きたいなと思っていました。(過去形…)


いつか書けたらいいな。(いつか…)







読んでいただきありがとうございました!