(side A)








「さっぶ……」


電車を降りると、北風がピュウッと吹いて、オレは知らず身を縮こませた。
しっかりコートを着ているはずなのに、寒い空気が入ってくるような気がして、
コートの襟元を合わせる。



待ち合わせは午後8時。
少し遅れちゃうから始めてて!って、言ってある。
場所は、大学の頃いつも集まってた居酒屋。
ほぼ毎週のように……時には、2日と開けず通っていた店なのに、卒業してからはずいぶん久しぶり。
みんなそれぞれ仕事も忙しくなって、なかなか都合が合わなくて……。
最後に全員で集まったのは、何年前だったかな……。



ガラガラっと店の引き戸を開けて、中に入ると、暖かな空気と、あのころと変わらない賑やかな喧騒にほっとする。

「おー、あんちゃん久しぶりだなー!」なんて大将のだみ声に、手を挙げて答えて、いつもの、奥の座敷へと急いだ。





「おーっ、相葉ちゃん、こっちこっち!」

「おーちゃん、久しぶり!」




おーちゃんは卒業後、実家のパン屋を継いでいて、朝が早いからってなかなか夜、飲みに来れないんだけど。
一緒に働いてるお姉さんが、たまには行っといで!って言ってくれたんだって。



コートを脱ぎながら近づくと、自然な流れで松潤がそれを受け取って、ハンガーにかけてくれた。
昔から、さりげなく紳士なんだよなぁ……。

あまりの紳士っぷりに、一時期ジェントル潤なんてアダ名までついてた松潤は、海外を飛び回るビジネスマン。マイル溜まり放題だなんて愚痴ってたっけ。



「相葉くん、ビールでいいよね?ツマミは適当に頼んどいたから。すいませーん!」


店員さんを呼ぶ翔ちゃんは、お医者さん。去年までは大きな総合病院で働いていたけど、実家の診療所を継いで、地域密着型の医療を目指すんだっていって今は、地元に帰ってきてる、


オレは……、小学校の、教師をやってる。もともと子どもが好きだったし、純真無垢な子どもたちに教えるってやりがいがあるだろうなって、それが、目指したきっかけ。まあ、実際はそんな簡単な話じゃなかったんだけど……なんとかやれてる、と思ってる。



それから、あとひとり……。







席に座ってさっそく運ばれてきたビールで乾杯。
オレにとってはひとくち目の、みんなにとっては何杯目かの泡を堪能する。

くぅーーー!この一杯のために生きてる!

やっぱり冬でも生でしょ!

ぐびぐびと半分くらいまで一気に飲んで、一息ついた。





「で?アイツはまだ来ないの?」

「相葉くん、なんか聞いてんでしょ?」

「何時頃来るって言ってた?」

「なんでみんな、オレに聞くんだよ……」

「えー、だって相葉ちゃん、ニノと一番仲良かったじゃん。」


ニコッと目尻を下げて、おーちゃんが言う。

「なんだかんだいって、アイツが今一番忙しいんだろうなー。」

「相葉くん、ニノと最近連絡取ってないの?」

翔ちゃんと松潤も、口々に言った。





ニノ。二宮和也。

オレの幼馴染。

ほんの子どもの頃から、ずっと一緒だった。

ずっと、一緒だった。




「まさか、ニノがホントにスターになるとはなぁ~」

おーちゃんがしみじみ言う。

そう。

卒業後、芝居がしたいって言ってニノは劇団に入って……
出演した舞台が話題になって。
スターとまでは言わないけどさ、最近はちょこちょこテレビや映画に出るようになって。
注目の新人って雑誌にも出たりして。


ずっと、一緒だった、けど。
最近は、なんだか……


「なーんか、遠くに行っちゃった、って感じだなぁ~」



「何が遠いって?」



おーちゃんが呟いたのをみんなが笑ったのと、
すーっと個室の襖が開いたのは同時だった。


「ニノー!」

「なんだよ、久しぶりだなー!」

「遅れちゃってごめんね?」


笑い合いながら入ってきたニノは、ごくフツーな感じでオレの横に座った。


居酒屋の、いろんなものが混じった匂いの中に、ふわりと香るニノの匂い。



懐かしいな。



お互いの近況を笑いながら話すみんなの声を、遠くで感じる。




オレとニノは小さい頃からの幼馴染で。

一番仲良くて、

一番、一緒にいる時間が長かった。

ずっと、こうやって隣にいたんだ。




あの日まで……。







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