(side N)
「あーあー、まー、ちょっと、吹きこぼれてるよ?」
「わっ!ごめん、ちょっと見てて!こっち集中してた!」
キッチンで料理する相葉さんがわたわたする。
横でほかの調理してた潤くんが苦笑しながら、コンロの火を弱めた。
あのあと…、
翔さんが、俺の楽屋を突然訪れたあの日から、それまで明らかに凹んでたはずの俺の様子が変わったのかね?
仕事で会う度に相葉さんが、俺の話聞きたくて聞きたくてウズウズしてんのがわかんの。
わかるんだけどさ、まあ…なんて言ったらいいかわかんなくて。
なんか…照れくさいしね。
適当に誤魔化してたんだけど。
業を煮やした相葉さんと潤くんについに拉致られて、今日は潤くんちに来ていた。
ソファーに座った俺に、潤くんは、寒くないかとブランケットくれたり、喉が渇かないかと飲み物くれたり、なんか見てて、って手の届くところにテレビのリモコンを置いてくれたり、甲斐甲斐しく世話をしてくれて、
しばらくしたら、仕事が残ってた相葉さんも仕事を終えて来て。
で、ふたり仲良くクッキング中。
俺、置いてけぼり。
リビングのソファーでブランケットにくるまりながら、体育座りでカウンター越しにキッチンをぼんやりと眺める。
仲良しだよな…なんだかんだいって。このふたり。
少し前だったら…こんな状況、こんな落ち着いてなんか見てらんなかった。
きっと、嫉妬に身を焦がしていただろうと思う。
それが、相葉さん幸せそうだなーなんて微笑ましく見ていられるようになるなんて…なんだか不思議だよな…。
時間は、薬になる。
それと…
随分前に、聞いたことがある、
「失恋を癒すには、新しい恋」
なんて言葉も、過ぎる…。
って、何言ってんだろ!俺!
ばっかじゃねーの!
脳内で、恥ずかしくなってワタワタしてたら、
気づかないうちにダイニングテーブルには、うまそうな料理が並んでいた。
「ニノ、出来たよー!おいで!」
「おいで、って、犬じゃねーんだから」
「くふふ、まあまあ、いいじゃんいいじゃん。
ビールでいいよね?」
いつものビールを、缶のままじゃなくてちゃんとグラスに注いでくれる。
かんぱーい、ってグラスを合わせて…
向かい側に並んで座るふたりが、こっちをじーっと見てる…。
ひとりはニヤニヤして。
ひとりはソワソワして。
もう…。
「そんなに見られてたら落ち着かないんですけど。」
「え?え?オレ、見てた?そう?」
「ガン見でしたけど」
「いや、だってさぁー。ねえ」
「なあ」
「なによ、ふたりして…」
聞きたい、聞きたいけど聞けない、って顔でソワソワしてこっち見る相葉さんと、
余裕そうにニヤニヤしてる潤くん。
はぁー。思いっきり、ため息。
もうね、相葉さんの心の声が見えんのよ。
『あー聞きたい、聞きたい、ニノと翔ちゃんがどうなったのか聞きたい、でも、ダメだったんなら聞いたら悪いしー、だけど最近元気だから悪い方向ではないと思うんだけど…でもなぁー、ニノお芝居上手いからな、隠してるだけかも!だけど、オレの見立てではぜったい上手くいくと思ってんだけどなー、あー、聞きたい!どーなってんのぉー!』
全っ部、顔に書いてあんの。
ある意味、正直っつーか。
くふふ、って笑いたくなるのを必死でこらえる。
真面目な顔を作って、咳払いひとつ。
「そういうことになりましたよ」
「え?え?何?なにが?」
「だからぁ、翔さんと!つきあうことになったっつってんの!」
あー、言っちゃった!
そう、あの日、俺のこと抱きしめた翔さんは、
ちゃんと俺の目を見て、
『ニノ、俺と、付き合って?』
って言ってくれたんだった。
だってふつーさ?この歳になって、わざわざ、さ?
つきあってください、なんてちゃんと言われるとか思ってなかったし!
中学生でもあるまいし。
なんて言うか…。ほら、ふつーはさ?
ごはんとか行くようになって、会う回数が増えて、なんとなく?そういうことになってさ?
あれ?俺たち付き合ってんの?そうなの?みたいなさ?まあ、わざわざ口にしたりしないじゃない。
それをさ…。
なんて言うか、古風というか、ちゃんとしてるって言うか、男らしいというかさ…。
くふふ。
俺、惚気てるみたいじゃん。
はずかしー。
とか、なんとか考えていたら、目の前の男が目をうるうるさせてて。
「ニーノー!!よかったねえ!!!」
って飛びついてきた。
「わわっ、なんだよ、ビールがこぼれる!」
「ニノー!!幸せになってねーっっ!」
俺の肩にしがみついて泣いている相葉さん。
この人は…。
きっと、俺を振ったこと、ずっと心のどこかで気に病んでいたんだと思う。
ホントに優しいやつなんだ。
形は違っても、俺のことを想っていてくれる。
ありがとう、なんて…言わないけどさ。
いつだって、感謝してる。
言わないけどね。
「もう!いい加減離れなさいよ!暑っ苦しいんだよ!」
「だってぇー!よかったねえええ、ニノー!!」
「潤くんー、何とかしてくれません?この人ー!」
わーわー言いながらじゃれつく俺たちを、潤くんが優しい目で見ていた。