《side S》
撮影終了。
局の廊下を、ゆっくりと歩く。
もうニノ、帰ったかな…。
仕事中ならまだしも、楽屋で顔を合わせるのがキツくて、スタジオでスタッフさんと話をしてから、ゆっくり楽屋に帰るのが常になっていた。
今日も、頑張ったな…俺。
はぁ…と溜息をつきながら、首を倒してコキコキとストレッチしつつ、歩く。
「しょーくん」
ポン、と肩を叩かれて、振り向くと、智くんが立っていた。
「今日さぁ、おれのマネージャー、なんか急用ができちゃったみたいでさぁ。しょーくん、乗せてってよ」
ふにゃっと笑う。
乗せてって、って言っても事務所の車だ。
マネージャーが運転してくれる。
2人で後部座席に座ったら、智くんは、すぐ目を閉じた。
寝るんだ…。
俺も、隣に座って目を閉じる。
眠るわけではなかったけど、ここ最近寝不足だったから、目を閉じるだけでも楽なんだ。
とくに喋ったりすることもなく、車はするすると走って、智くんのマンションの前に止まった。
「じゃあ、お疲れ様」
そのまま降りて帰るだろうと思って、そう言って手を振ったのに、智くんは降り際にその俺の手首を掴んだ。
「しょーくん、寄ってってよ」
「え?いや、なんで?」
「いいじゃん、たまには。うちでメシでも食ってってよ」
「いや、いいよ、帰るよ」
「いいから。」
なんだろう、この有無を言わせない感じ…。
いつもよりずっと押しの強い感じで、智くんは俺をじっと見ていた。
「…わかったよ、行くよ」
仕方なく、そう言って車を降りた。
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