そっと触れた翔さんの唇は、ふわっと柔らかくて、
それでも、今まで冷たいグラスにあてていたせいなのか…それとも俺が熱を持っていたせいか、意外とひんやりとしていて。
カラダの中のたった数センチが数秒触れ合っただけだっていうのに、
俺の全身が、ゾクゾクと震え上がった。
俺だって人並みに、いや、人並み以上にいろんな子と付き合ってきて、
それこそ数え切れないくらいの、もっとすごいキスだってしてきたっていうのに、
こんな…
全身が痺れるようなキスは…はじめてだった。
今まで、頭の中でぐるぐると考えてきたことは何だったんだろうって…笑っちゃうくらいに、
たった数秒のキスで、わかってしまったんだ。
「翔さん…、俺…翔さんが、」
「ニノ!」
それを、伝えようとした俺を遮るように、翔さんは鋭い声で俺を制した。
そして、
「ごめん…。」
と言って、眉を下げた。
どうやって、部屋まで帰ってきたのか、記憶にない。
俺は、自分の部屋のベッドで目が覚めた。
部屋に帰ってきたのは覚えていなくても、
昨日交わした会話だけは、しっかり覚えていた。
『翔さん、俺…翔さんのこと、』
『ニノ!
…ごめん。ごめんな。』
そう言って、翔さんは俺をじっと見た。
そして、黙って、頭を横に振った。
…それが、答えってこと、なのかな…。
ベッドに仰向けに横たわったまま、天井を見つめながら思う。
翔さんの、その切ない…悲しい顔を見て、俺は、もうそれ以上何も言えなくて…。
『俺も…ごめん』
このことは、もう忘れて?
そう言って、逃げるように部屋を後にした。
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