ツアーが始まった。


1年の仕事の中でも、特に力を入れて、特に大変で、特に楽しい日々。
やっぱりコンサートはいいよね。
ファンのみんなのリアクションを直に感じられるし、
単純に、あのパワーが凄い。
360度味方に囲まれているあの感じ。
ステージにあがって、一発目のあの歓声を聞くと、やっぱり感動する。
感謝以外の何物でもないよね。



リハとか、準備はほんと大変だけど、
ほら、ワタシ結構忙しくさせていただいてるからね?
他にも仕事しながらの準備だし、
それに、今回は……プライベートもいろいろあったし、結構大変だった。

けど、本番始まっちゃったらさ、もう、楽しい!ってしかない。



疲れるとかいうことよりも、気持ちいい!楽しい!てテンションが上がりきった状態だった。



そんなテンションのまま、ホテルに戻る。



ツアーの最終日、しかも移動は明日!
今日はこのままホテルに泊まって、ゆっくり出来るっていう最高の状態。


スタッフさん含めの打ち上げがあって、酔っ払ってゴキゲンな俺らは、そのまま5人で飲もう!ってリーダーの部屋に集まった。


もう打ち上げでそれなりに食ったから、ホントちょっとしたツマミと、ビール。
焼酎と、ワインも持ち込んで。


乾杯の挨拶を大野さんに求めて、じゃあ、って話し出したところを食い気味に乾杯して4人で先に飲んじゃうお約束に、ゲラゲラ笑って。


いい気分になっちゃってるから、ちょっとしたことでもおっかしくて。
しかも気心の知れたメンバーだけでしょ。
みんな、早々に酔っ払って。
もう歳かねぇ、酔いが回るのが早い早い。
ま、コンサート終わりだからね、疲れてるし仕方ないよね?


あっという間に相葉さんが寝息を立て始めて、潤くんが抱えて部屋に帰ってった。


俺は、翔さんとしばらく喋ってたんだけど、
ふと見れば、大野さんもすっかり夢の中。


ボソボソと喋っていた会話が、ふと途切れて、沈黙が訪れる。


沈黙も、嫌いじゃない。

むしろ、落ち着く。



静かに流れる音楽。

大野さんの寝息。

相葉さんが置いてった、ビスケットの袋のガサガサいう音。

グラスの氷が溶けて、カラン…と鳴った。








無言で居ても、無理がなくて。

話せば、楽しい。

顔を見れば、笑顔になって、

見られなければ、さみしくなって。

嬉しいことがあった時、伝えたいのも、悲しいことがあった時、話を聞いてもらいたいのも、

好きな風景を一緒に見たいのも、新しい景色を共に探したいのも、

俺にとって、それは……。





「…ニノ?どうした?」

「あ、なに?」

「ふふっ、聞いてなかったのかよ」

「ごめんごめん、ちょっと考え事…。なになに?」

「いや、智くんの寝息うるさくね?って。」

「ははっ、確かにねー。すぴーすぴー言っちゃってるし」


ああ、やばいやばい、俺、何考えちゃってんの?

酔ってんのかな…。



自分では、そんなに酔ってる感じはしてないけど、これ以上飲んだらヤバイのかも…。


「さて、俺も、そろそろ部屋帰って寝よっかなー」


そう言って立ち上がろうとしたら、ちょっとふらっとした。

あっ、コケる。

反射的にぐっと身体に力が入って、踏ん張ろうとしたけど、酔って力が入らなくて。


目を閉じて衝撃を覚悟したけれど、力強い腕に抱きとめられた…。


「翔さん…」

「おいニノ、大丈夫か?あっぶねーな、部屋まで送ろうか?」


至近距離で見る翔さんの顔は、心配そうに俺を覗き込んで、
アルコールでうるんだ瞳に、俺が映るのが見える。


そこに映る俺の顔は、まるで……



「ニノ?ホント大丈夫か?」

「あ、うん、大丈夫…。」


そっと抱き起こして椅子に座らせてくれたその腕が、俺から離れていくのが、なんだか、さみしくなって。


俺は、咄嗟にその腕を掴んだ。


「どうした…?」


「わかんない」


「なにそれ、わかんないって…。」


「わかんないけど……」


掴んだ腕に、ギュッと力を込める。


「ニノ…?」


そうだよ、この時…俺は確かに酔ってた。


コンサートの後で疲れてたし、テンションも上がってた。それにここ最近仕事もプライベートも忙しくてろくに眠れてなかったし、打ち上げで飲んで部屋でも飲んで、


そう…酔ってたんだ。


俺は、掴んだ腕に力をさらに入れて引き寄せて、
翔さんの、その艶やかな紅い唇に、自分のそれを、重ねた。




時間にしてはほんの一瞬、
ただ重ねただけのキスだった。


それなのに、俺は、気づいてしまったんだ。



俺は、この人に恋してる。



翔さんが、好きだ。












.