「あ…ニノ。今、時間ある?」
「あるけど…どしたの?」
「いや、丁度近くのスタジオで取材でさ…。ニノが来てるって聞いたから。」
「あ…。どうぞ、座って?」
どことなく俯きながら入ってきた翔さんは、少し迷って、俺の向かい側のソファーに腰掛けた。
「これ、良かったら。」
「ありがと…。」
翔さんが、ポケットから缶コーヒーを渡してくれた。
俺の好みのブラックコーヒー。
そこの自販機で買ってくれたのかな。
カコッ、とプルタブを開けて、2人でコーヒーを飲む。
しばらく、ふたりとも無言で…。
翔さんは、飲んでいたコーヒーを一気に飲み干すと、俺に向かって頭を下げた。
「ごめん、ニノ!この前は、ホントごめん。
俺、ちょっとイライラしてて…。
大人気ない態度取って。
ごめんな?」
「なに、翔さん、頭上げてよ。俺こそ…本番前にふざけたりして、真剣味が足りなかったのかもとか、思ったし…。」
「そんなことない、ニノは悪くないんだよ。ホント、ごめん。」
真剣な目でそう言う翔さん。
こんなふうに、自分からきちんと謝れる誠実なところも…翔さんのいいところだと思う。
俺は、どちらかと言うと天邪鬼な方で、悪いなって思っても、言葉にするのが苦手というか、照れくさいというか、
ごちゃごちゃ言い訳しながら回りくどい言い方になったりしちゃうんだけど、
だから、こうやってまっすぐ謝罪の言葉が言える翔さんが、なんだか、眩しく見える。
「…ニノ?」
つい、ぼーっと眺めてしまった。
「あ、うん、いいよ、わかったんなら、しょーがないから許してやるよ。」
「フフッ、なんだよニノ、偉そうだな」
くすくすと笑いあって。
俺達の距離は、一気に元に戻った。
そこからは、くだらない馬鹿話をして笑ってたけど、
楽しい時間ってあっという間で、ADさんが撮影開始を呼びに来てしまった。
「じゃ、俺も戻るわ」
「うん。あ、翔さん、今日は…」
「これで終わり、だろ?メシ、予約しとく。」
「だから…メンバーの予定把握し過ぎでしょうよ…。」
「フフッ、行くんだろ?」
「奢りなら、行きますよ?」
「何だよそれぇ。ま、いいか、お詫びに奢るよ。」
「やったあ!ゴチでーす!」
「お前、今回だけだからな?」
翔さんの大きな笑い声が響く。
俺も、一緒に笑って。
じゃあ、また、って手を振った。
「なぁー、ニノー、なにニヤニヤしてるん。きっもちわるいわぁー。」
「え?俺、ニヤニヤなんかしてます?」
共演する芸人さんが言うのに、俺は慌ててセットの中の顔が映りそうなものを覗き込んだ。
両手を頬に当てる。
「ニヤニヤ…してるかなあ…」
「しーてーるって。ウザイわぁー。前はため息ばっかりついとったくせに、今はニヤニヤ…
ははぁーん、アレや、オンナとよりが戻ったかなんかしたなー?」
「何言ってんすか。仕事するよ!仕事!」
コイツ、いい人だけどそんなことばっかり言ってるのがめんどくさい。
でもな…。俺、そんなにニヤニヤしてんのかな…。
自然と上がる口角を手で撫でながら、気を取り直して台本に目を向けた。
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