マネージャーの運転する車の中で、翔さんは1本電話を入れた。
一言、二言会話して、すぐ通話終了。
「いいの?前から約束してたんじゃないの?」
「大丈夫大丈夫。向こうも…あ、大学の頃の友だちだけどさ、わかってるから。都合が合えば、くらいの事だったし。」
簡単に言って、鼻歌交じりに今度は、これから向かう店に確認と予約の電話。
翔さんは、こうやってどんどん仕切ってくれる。
こういうのがダメな人もいるかもだけど、
俺の場合、ホント、ありがたい。
道路も渋滞することもなく、スムーズに車は店につき、車から降りた。
帰りはタクシーに乗ることにして、マネージャーさんには帰ってもらって…。
その店は、郊外に建つこじんまりとしたレストランだった。
時間も遅い割には、店内は満席のようだった。
薄暗い照明と、静かに流れるジャズで、ムードのある店内。
出迎えてくれた店員さんが、奥の個室に案内してくれた。
向かい合って座り、おしぼりで手を拭きながら、
「ここ、前にロケの時発見したんだけどさ、
ハンバーグが超美味いの。絶対、ニノ連れてこようと思ってたんだよね。」
と、笑う。
オーダーを取りに来た店員さんに、ハンバーグと、なんか海鮮リゾットだかを注文して、他にも細々料理を頼んで、とりあえず、ビールで乾杯。
最近の仕事の話。ロケ先であった面白いこと。こないだ見た映画。今人気の芸人さんのこと。収録で知ったユニークな食べ物。オススメの本。
ビールからワインに切り替えて飲みながらも、話題は尽きることなく、話して、聞いて、笑って。
翔さんの勧めてくれたハンバーグは本当に美味くて、更に気分も上がる。
つい、夢中になってハンバーグを頬張っていたら、ふと、視線を感じて目線をあげると、
すごく穏やかな優しい目で、翔さんが俺を見ていた。
「いかがですか?お口に合いましたか?」
「たいへん美味しゅうございました。」
ふふふ、とふたりで笑う。
「翔さん、俺ね、もう、スッキリしたから!」
ん?と目で尋ねてくるのに、
「相葉さんのこと!いろいろあったけど…もう、吹っ切れたから!」
宣言してやった。
「あ、そうか…、そうか…。」
噛み締めるように呟いた翔さんは、俺を見て微笑んだ。
「よかったな。」
こうやって、もう大丈夫、って声に出して言うごとに、なんだか気持ちが整理されていく気がするんだ。
「ごめんね?心配かけて。もう大丈夫。」
「うん。…そっか。よかった。」
ふふ、と笑ってもう一口ハンバーグにかじりつく。
ちょっとでっかく切りすぎちゃったみたいで、口の端からソースが垂れた。
「あっ、」
と言ったのは俺だったのか、翔さんだったのか…
翔さんの手が素早く向かいから伸びて、俺の口元に触れる。
拭った指をぺろりと舐めた翔さんに、唖然とする…。
「あ…。ご、ごめんニノ、つい…。」
「あー、うん、ありがと…。」
俺、絶対顔、真っ赤だ。
酒のせいだけじゃないはず。
もう…。
俯いて、口の中のハンバーグを急いでもぐもぐ、ごくん。
翔さんの顔も真っ赤だ…。
真っ赤なまま、目が合わないようにお皿を見つめて、口いっぱいにリゾットを放り込んだ。
まるでリスが頬袋にエサを溜め込むみたいに…口の中パンパンにしてもぐもぐしてる。
可愛いな。
ふふふふ。なんか笑えてきた。
「なんだよ、何がおかしいんだよ…。」
もごもご言いながら上目遣いにジトっとこっちを見る翔さん。
ふふ。くふふ。ふふふふ。
我慢しようとすればするほどおかしくなってきて。
俺の笑い声につられて翔さんも笑って。
お腹を抱えて大笑いした。
こういうのがいい。
楽しくておかしくて、幸せな夜。
この日は、家に帰りついたらそのままゲームもせずに寝た。
なんだか、楽しい気分でそのまま眠りたくなって…。
サッとシャワーだけ浴びて、ベッドに潜り込んだ。
なにか、幸せな夢を見たような気がする…。
目が覚めたとたん、忘れちゃったけど。
微笑みながら目が覚めるなんて、自分で自分に驚いたんだ。