それから何日か経って、別のレギュラー番組の収録日。
「あ、翔くん!」
局の廊下を歩いていたら、事務所の後輩がかけ寄ってきた。
最近、翔さんと仲いいっていう、後輩。
翔さんも、面倒見いいからね。結構、可愛がってるみたい。
「翔くん、もう終わりっすか?」
「ああ、うん」
「このあと、よかったら、メシ、どうっすか」
「ん、あー…」
ニコニコ笑いながら後輩くんが言うのに、翔さんは、俺をチラッと見ながら言いよどんだ。
このあと、俺ももう帰るだけ、ていうの知ってるから、かな。
なんて。
別に、約束してた訳じゃないし。
「翔くんに、いろいろ相談したいこともあるんですよねぇ…。
ダメっすか?なんか予定入ってます?」
上目遣いで聞かれて、愛想笑いしてる翔さんが、迷うようにこっちを見ている視線を感じて、
俺は、さっと大野さんの隣に行く。
「ちょっとおじさん、このあと暇?」
「んにゃ、忙しい」
「仕事だっけ?」
「うち帰って、寝るのに忙しい」
「何よーそれぇ」
じゃれながら、さっさと歩く。
歩きながら、後ろで、
「じゃあ、少しな?」
「やった!ねえねえ、じゃあ翔くんち行きたいなー!」
なんて声が聞こえて…。
また、モヤモヤし始めた気持ちに気づかないフリをして、
俺は、足を早めた。
はぁー······。
結局、大野さんに振られてそのまま家に帰ってきた。
途中、コンビニで買ってきた惣菜を、もそもそと食いながら、ビール。
テレビをつけたら、事務所の先輩がゲストの番組で。
可愛い後輩は櫻井、なんて言ってる。
女の子はもちろんだけど、男にもモテるってどういう事よ。
今日会った後輩くんだって、話しながらさりげなくぺたぺた触ったりしてさ。
ほかにも、翔さんを慕う後輩は多い。
まさか、みんながみんなそういう目で見てるってはずはないけど…。
うーん…………。
あれかな。
俺、最近ゆっくりゲームする時間もなく仕事もプライベートも忙しかったからさ。
ストレス溜まってんのかもよ?
いや、撮影の合間とかに細々とやったりはしてるんだけどさ、
こう、腰を据えて取り組んでないかもね?
そうだ!
そうに違いない。
心の奥底に巣食うモヤモヤの種の原因を、そういう事だと結論づけて、
俺は、ゲームのスイッチを入れた。