(side A)






帰りのタクシーの中は、無言だった。


オレも、潤くんも、何も話さなかった。



あ、一言だけ話したかな。

「明日何時?」って聞かれて、時間を言ったら、オレのほうが早くて、
じゃあ、まーんちに行こう、って言われたんだ。
潤くんは、いつもオレの事気遣ってくれる。





ニノの家に潤くんが来て。
口では「帰りたくない」「話すことなんかない」って言ったけど、


このままじゃダメなんだって、わかってた。


だから…。
抵抗らしい抵抗もせず、帰ってきたんだ。





エレベーターが、音もなく上昇する。
乗っているのは、オレたち、だけ。
光る階数表示を見るともなしに眺めるその横顔を、オレは、横目で見ていた。


ニノんちに迎えに来てくれた、潤くん。

息を切らして、まさに駆けつけたって感じだった。

あんなことされて…
オレのいい分もちゃんと聞いてくれないで、
うやむやにされてしまうのかと思ったら、悲しくて、悔しくて、思わず家を飛び出しちゃった。
本気で許せないって思った。
だけど…。


インターホンから聞こえた、潤くんの必死な声を聞いたら…。

秋も深まってきて夜はずいぶん冷えているというのに、息を切らして、うっすら汗までかいて、探し回ってくれてたような潤くんを見たら…。


胸の奥が、キューンって疼いて、たまらなくなって。

ちゃんと話さなくっちゃ、って、思ったんだ。




オレんちに帰ってきて、コートを脱いで、
うがい、手洗いをしている間も、無言で…。
空気の重さに、なんだか息切れしそうになった頃、
潤くんが、話し出した。