コンコン、とノックの音が響いた。
ビクッ!と肩が揺れる。
見上げてみると、ドアについたガラスの丸窓から、見慣れた笑顔。
「大野さん…」
ドアを開けて入ってきた大野さんは、俺の隣に同じようにしゃがみこんだ。
「にの、タバコ行くのにタバコ持ってかなきゃダメだろ~?」
「あ…」
「だから、にのに届けるついでにおれもタバコ~、って言って出てきちゃった。」
そう言って、ふにゃっと笑う大野さんから、ほい、とタバコを渡される。
「ココじゃ吸えねぇよ、にの。喫煙所行かなきゃな~」
「うん…。」
「だから、代わりに、コレ。」
グーに握った手のひらから、ころん、と飴が出てきた。
「んふふ。元気になる飴だぞー。」
「…さっき楽屋に置いてあったヤツでしょーが。」
「あっ、知ってた?」
そう言って、包みを開いてその飴をぱくりと口に投げ入れる。
「アンタが食うのかよ!」
「もう1個あるよー。ほら。にのも食べな?イチゴ味。」
ほら、ほら、と目の前に飴を出してくる。
仕方なく俺も口に入れた。
「…甘っ」
「んまいだろ?甘いもんはな、元気が出るぞぉ。」
しばらく、ふたりで飴をなめながら、じっと黙ってしゃがんでいた。
飴を食べ終わっても、大野さんは特に何を話すでもなかった。
じーっと黙って隣にいるだけ。
だけどさ…
なんだかじんわりじんわり、癒されてく気がした。
ファンの子たちが言うみたいに、ホントこの人、マイナスイオンだかα波だか、出してんじゃないの?てくらい。
言葉にはしづらいんだけど、
何を話さなくても…打ち明けなくても、すべて赦されているような…そんな気さえしてくるんだ。
たっぷり黙った後、大野さんは立ち上がって、言った。
「足、痺れちゃった」
「ふっ、くくっ…なんだよ、それ」
「にの、痺れない?ずっとしゃがんでんだもん、足、いてぇよー」
「ずっと黙ってて、それかよ…くくっ」
「笑うなよ~。」
俺たちは、お互いの痺れた足をくすぐりながら笑いあった。
悩みもなんとなく、晴れたような気がした。
「さ、じゃ行っか!みんな待ってるぞ~」
先にドアを開けて出る大野さんの背中に、「ありがとう」って呟いた。