あれから10年…
重い雲がたれ込めて今にも雨が来そうな…持ちこたえそうな…はっきりとしない暗い空…
10年前の今日もちょうどこんな空模様だった
2000年10月29日
東京 日本武道館
The Street Sliders
LAST LIVE
車に乗り込みセルを回しエンジンが暖まるまでの暫らくの間、シートに深く身を沈めてフロントガラスの向こうの重い空を見つめていた
自分の中の何かが終わりを迎えているのを感じながら…
一体何を見届けようとしているのだろう
一体何を聴こうとしているのだろう…
既に人で溢れ返っている武道館前の駐車場に車を入れて暫らく人の流れを見ていた
かつて居場所を求めて集まって来ていたいつかの彼等彼女等もそれぞれに見つけた居場所からこの日この場所に集まっていた
それはいつもと何も変わらない、いつもの光景
ただひとつだけ違うのは今日が最後であるという事実
いつもと変わらない武道館の席
いつもと変わらない開演前の静かなざわめき
そして―
いつもと変わらない開演を告げる暗転…
いつものようにバンドはゆっくりとステージへ
『HELLO!』
そしていつものようにゆっくりと演奏は始まった
不思議と何も感じなかった
見届けるべきものは何もなかった
そこにはいつものバンドと終わりを告げてしまった音だけが、ただそこにあった…
観客の感傷を余所にステージは淡々と進み特別なこともなくアンコールへ…
そして最後の曲…
アンプ脇にそっとスタンバイされたサイケデリックペイントギターが最後の曲を無言で告げる…
『のら犬にさえなれない』
噛み締めるように最後の一音を引き延ばしバンドの音が鳴り止んだ
『THANK YOU…』
バンドが去ったステージから放たれた七色の照明に照らされた客席…
呆然とステージを見つめ続ける彼…
そっと涙を拭う彼女…
足早に出口へ向かう彼等…
席で帰り支度を始めた彼女等…
夢の終わりにそれぞれの居場所へと戻って行く…
客電が点き、ゆっくりと席を離れ駐車場へと向かう
正面入口を振り返ると【LAST LIVE】の看板が照明に照らされ、闇に包まれた武道館に一際浮かび上がっていた
何を見届けたわけでもなく
何を聴いたわけでもなく…
ただ、ひとつのバンドの音が鳴り止み…
自分の中で確かに何かが終わった。
武道館を横目に駐車場から車を出し、何かが終わった喪失感を抱えて休日で車の少ない通りへと滑り込んで行く…
いつもと変わらない夜の始まり
何かが確かに終わった夜…
あれから10年…
それでもロックンロールは鳴り止まず
それでもロックンロールは転がり続ける
すべてのジレンマを抱えて…


★のら犬にさえなれない