私たちは、仕事において困難や苦労の中にある時、往々にして、その仕事から逃げ出したくなり、苦労のない「楽な仕事」はないものかと考えてしまいます。「仕事」を「パンを得るための手段」、「生活の糧を得るために行うもの」と思っているからです。

 しかし、仕事は“そういうものではない”ことも知っています。

 福沢諭吉は「心訓七則」の中で、“世の中で一番楽しく立派なことは一生涯を貫く仕事を持つことです。世の中で一番寂しいことは仕事のないことです。”と言っています。

 京セラ創業者の稲盛和夫さんは中村天風の言葉を用いて次のように言っています。

「中村天風は『計画の成就は只不屈不撓の一心にあり。さらばひたむにきに、只想え、気高く、強く、一筋に』と言いました。計画を成就しようと思うなら、不屈不撓の一心で、矢が降ろうと何が降ろうとめげない。そして一点の曇りもない思いを抱く。そうでなければ、計画などできやせんのだ、と。これは真理なんです。私はJALの再建でこれを掲げたのです。再建をしたいと思うのであれば必死にやる、何としてもやるぞ、と。不景気だとか、うちにはこういう技術がないからとか、何を言うとるんや。ないのが当たり前やないか。今の日本の低迷ぶりは、強い意志の欠落なんです」と。

 仕事を行う上での気持ちのあり方を訴えています。仕事は単にサラリーをもらうだけのものではありません。

 自分が何をするために生まれてきたのか?その目的のために会社(仕事)をどう役立てるか。仕事を通して自分を磨き、どんな社会貢献を行うかを念頭に置くことが必要です。

 松下幸之助さんは仕事を通して“人間をつくる”ことを考えていました。

 次のようなお話があります。(昭和初期、松下電器(現:パナソニック)がまだ中小企業の頃のお話です。)

 ある幹部が社外会合に出席した時の内容を幸之助社長に報告しました。

 幹部「今日、会合に出かけましたところ、松下電器は何をつくる会社ですかと聞かれました。」

 幸之助「そうか、君、どう答えた?」

 幹部「ちゃんと、電気製品をつくる会社です、と答えておきました。」

 幸之助「何? 君は松下電器は電気製品をつくる会社と答えた? その君の答えは、私の考え方と違うな。」

 幹部「社長、それはどういう意味ですか?」と聞くと、松下幸之助はこう言ったそうです。「君な、知識や技術や資格は全部、人生の道具であって、どんな立派な道具をそろえても、それを使う本人が人間として立派にならん限りは絶対にいい仕事はできない。松下電器は電気製品とともに人間をつくる会社や。」