思考の整理日記 - アメブロ時代 -4ページ目

日本の1万年の人口増減とFacebookのネクストステージ

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先日、ツイッター上である先輩が「Facebookがそろそろ潮時かもしれない」というツイートをされていました。飽きたとか単純な理由ではなさそうだったので、ちょっと気になりReplyをすると、次のような状況からでした。
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色々な「友達」が増えすぎてなんとなく投稿がしにくくなった。フェイスブックには最近できた友達から中学時代の友人までいるので、投稿内容を妙に意識してしまう結果、無難なことしか書けない。今は不特定多数の人に見られるtwitterのほうが逆に気軽に投稿しやすい。
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■なぜFacebookでは無難な投稿内容になるのか

上記のリプライをもらった時に、確かにそうだなと思いました。フェイスブック(以下、FB)上にはいろんな「友達」がいます。地元の友達や大学の友人、仕事でお世話になっている方、等々です。FBに投稿するとき、どこかで見られることを意識してしまいます。例えば、投稿内容が特定のグループにしか意味・背景が通じないことだったりする時は書き込むのを結局やめたり、あるいはどこかで自分のことを良く見せようという気持ちがあるような気がします。つまり、書き込み内容にフィルターがかかってしまい、結局フィルターを通るのは無難な内容になってしまうのです。最大公約数的な感じで。

一方のツイッターの場合、気軽にできるのは不特定多数の人というところがポイントだと思っています。というのも、不特定多数だと投稿内容から自分がどう思われてもある程度構わないという意識があり、だからFBほど投稿内容にフィルターがかからなく、無難なことでなくてもアップできる。もちろんその中にはFBと同じように知り合いや友達、同僚もいるわけで、ツイートする/しないのフィルターをかけますが、それでも気楽にツイートできてしまいます。

■Facebook上の友達が増えるとどうなるか

FBに話を戻しますが、FB上で友達の数が増えることで次第に投稿内容がPersonalな内容が少なくなるという記事がありました。
Do Growing Friend Lists Mean Shrinking Facebook Use?|All Facebook

以下の図は同記事の元記事からの引用ですが、それによればFB上でつながっている友達の数により、より個人的なネットワークであるPersonal Networkから、Social Network、Professional Networkの3つに分かれると指摘しています。 思考の整理日記-110827 Engagement level among # of friends
NETWORK OVERLOAD: WHY FACEBOOK IS SINKING UNDER ITS OWN POPULARITY (WARNING TO GOOGLE+)|GREAT FINDSから引用

記事では同じ内容でも、Personal、Social、Professionalの3つで表現が次のように変わると言います。「週末をJaneと過ごしてとても楽しかったよ」(Personal)、「楽しかったハワイ旅行から今戻ってきた」(Social)、「ハワイで有意義な時間を過ごした」(Professional)。

もちろん、人により様々だとは思いますが、友達が増えるということは冒頭で書いたように色々な人間関係がFB上にできるので、個人的な内容やプライベートの話が中心だったものが、人数が多くなることでより公なメッセージになるというこの記事での指摘は理解できるものだと思います。

この引用記事のタイトルは「Do Growing Friend Lists Mean Shrinking Facebook Use?」(友達が増えることでフェイスブックの使用が減る?)です。確かに、フェイスブック疲れというか、フェイスブック離れみたいなものもちらほらと聞いたり、ネット上でも見かけるようになりました。(理由は様々で一概に友達の人数とは限らないことだと思いますが)

■1万年間の日本人口の趨勢からの示唆

「2100年、人口3分の1の日本」(鬼頭 宏 メディアファクトリー新書)という本をちょっと前に読んだのですが、そこにおもしろいことが書かれていました。2005年をピークに日本が人口が減少期に入ったと言われていますが、本書によると縄文時代以来の約1万年間において、日本では少なくとも4回の人口増加期と減退期があったようです(p.47-48)。

人口が増加するのは、海外から新しい技術や物産・社会制度が導入され新しい文明システムへと転換していく時代、一方で人口減退が起きるのはそれが定着して社会が成熟し発展の余地がなくなる時代だと言います。一例を引用します。狩猟採集社会であった縄文時代、人口密度は狩猟採集で成り立つ社会として世界一と考えられてるようですが、一方で生活は環境に左右され縄文時代後半は寒冷化も進んだことで人口は減少したようです。ですが、人口減退に歯止めをかけたのが稲作文化の流入でした。日本に水稲農耕が定着すると人口増加期に入ったようです。つまり、原始的な狩猟社会に稲作という新しいシステムが外部から入ったことで、新しい段階に移ったのです。
思考の整理日記-110827 日本人口の趨勢
人口から読む日本の歴史から引用

■外部からの「変化」がFacebookに何をもたらすのか

個人的に思うのが、これと同じようなことがフェイスブックにも起きているのではないかということ。もちろん全然仮説レベルなのですが、FBも転換期にあり、これまでのユーザー数が爆発的に増大しているフェーズから次の段階に移りつつあるんじゃないかなと。さっきの日本での人口増加・減退の歴史を参照すると、FBが次のフェーズに入り、さらに成長するためには外部からの新たな文化・システムが必要ということになります。それは何なのか。

そのきっかけになるのでは思っているのが、つい最近FBが発表した複数のアップデートです。その中には投稿の公開範囲を制限するのが簡単になるとあります。ユーザーが投稿を下書きしている時点で公開範囲のオプションが表示され、Friends(友だち), Public(一般公開)、Custom(カスタム)と選べるようです。
Making It Easier to Share With Who You Want|The Facebook Blog
Facebook、友だちがタグ付けした写真を事前に承認できるようになった―その他改良多数発表|TechCrunch JAPAN

これの発表内容を見た時に連想させられたのがGoogle+のCircleです。G+とFBの違いの特徴として、G+はサークル機能により投稿内容が指定しやすくなっていることがあります。G+では他のユーザーをフォローする時にそのタイミングでどのサークルに含めるかを決めますが、FBではこれまではリストはあまり有効に使われていない印象でした。それが、今回のFBの発表でG+のシステムを意識した変更のように思えました。

この変更がFBや私たちユーザーに何をもたらすのか。投稿の公開範囲が選びやすくなったことで、冒頭で書いたような無難な投稿内容にとどまらなずより活発なコミュニケーションができるようになるのでしょうか。今後の様子を見る必要がありそうですが、次のフェーズに入るための「外部からの新しい文化・システム」になるのか、興味深いところです。


※参考情報

Do Growing Friend Lists Mean Shrinking Facebook Use?|All Facebook
NETWORK OVERLOAD: WHY FACEBOOK IS SINKING UNDER ITS OWN POPULARITY (WARNING TO GOOGLE+)|GREAT FINDS
Facebook Sees Big Traffic Drops in US and Canada as It Nears 700 Million Users Worldwide|Inside Facebook
人口から読む日本の歴史
Making It Easier to Share With Who You Want|The Facebook Blog
Facebook、友だちがタグ付けした写真を事前に承認できるようになった―その他改良多数発表|TechCrunch JAPAN
Facebook、プライバシー機能をアップデート--投稿の公開先指定やタグ付けの承認などで変更|CNET Japan

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民放5社×電通のネットテレビは普及するのか?期待したいVODを考えてみる

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先日、テレビに関してある発表がありました。民放キー局 5 社と電通が共同でインターネットテレビを来春に実用化するというものです。電通のプレスリリースでは、「インターネットTV上において、民放各社が主体となった有料課金型のVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスを共同で推進していくことに基本合意」とあります。
民放キー局 5 社と電通が共同でVODサービスを推進|電通

■民放5社×電通のVODサービスとは

電通によるリリース内容をもう少し見てみます。
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この民放VODは、テレビの価値を向上させるという共通認識のもと、視聴者により多くのテレビ番組への視聴機会を提供することで、テレビ番組の視聴者層を拡大し、テレビ番組のファンを増やそうとするものです。(中略)民放VODは、簡単で誰でも使いやすいユーザーインターフェイスを開発し提供することを検討しています。(中略)この民放VODを、インターネットTVだけではなく、スマートフォン・タブレット端末などマルチデバイスにも広げ、リアルタイム視聴に繋げる流れを作り出すことにより、テレビの価値の最大化を図っていきます。
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思考の整理日記-110807 民放5社と電通のVODリリースでは抽象的な表現にとどめている印象ですが、この方向性は正しいと思います。つまり、TV番組視聴者を増やすために、ユーザーインターフェイスに優れ、TVだけではなくスマホやタブレットPCでも視聴可能としていくというのですから。もう一つ印象的だったのは、電通が民放5社をとりまとめている点。個人的にこれができるのは電通以外に見当たらないのではと思います。

このニュースを上記のリリース前に報じていたのが日経でした。電子版では同日の午前2時頃に、紙媒体でもその日の朝刊に掲載されていました(テレビでネット動画も自在に 民放5社と電通、来春に|日本経済新聞)。こちらではVODサービスのイメージ(右図は日経から引用)や課金体系など、少し具体的な内容が報じられています。中身を見ると、少し残念な気持ちになりました。そこに書いてあったのはこの方法で本当に普及するのかという内容だったからです。

■普及への3つのハードル

有料課金型VODということでその価格体系ですが、1時間番組が1本300円前後となる予定だそうです。会員登録をすれば銀行からの引き落としなどで課金されるとのこと。300円を払ってでも見たいような番組がどれくらいあるかというのが、1つ目に感じた普及へのハードルです。もちろん、関連する動画も見られるという付加価値があるので単純には現在の放送内容との比較はできませんが。しかし、それにしても番組1本で300円というのはかなり強気な価格設定だと感じます。サービスを実際に見てみないとなんとも言えませんが、個人的には1ヵ月で10本までは無料、見放題は300円/月くらいのイメージ。これでもVODは使わないかもしれません。

2つ目のハードルがコンテンツです。日経には、「民放5社合計でドラマやドキュメンタリー、スポーツなど過去に放送した動画は6500本あり、今後増えていく。」とありました。今後は増えていくことに期待はしたいですが、現時点で5局で番組動画数が6500本というのは少ない。このVODサービスで期待したいのは、上図にあるようにどれだけ関連する動画と連動するかだと思いますが、コンテンツの量が不足する感が否めません。コンテンツ数を増やすとともに有料の価値に見合う質も求められますが、個人的には現在TVで放送されている番組の質からすると、300円という価値に見合うかというとちょっと厳しいと感じます。

3つ目のハードルがこれ。現在発売されているテレビではこのサービスを受けられないため、家電数社が来春にも対応機器を発売する方向で準備を進めている点です。TVの買い替えが必須というのは普及には相当にハードルが高い。この間、エコポイントやアナログ放送終了に伴う地デジ対応TVの買い替えが大量に発生しています。電通のリリースでは14年度の本格運用を目指しているとありますが、TVの平均使用年数は10年以上というデータもあります(家電リサイクル法の施行状況|経済産業省)。例えば、せめてアップルTVのように既存のTVにつなげるだけでOKとかでないと、この有料VODのためにすぐにTVの買い替えが起きるとはなかなか思えません。

以上3つを整理すると、価格(Price)、コンテンツ(Product)、見るために新しいTVが必要(Place)ということで、マーケティング4Pで言うところのうち、普及には3つのハードルが存在します。(残りのPromotionは、日経がフライング気味で具体的に報じたことで特にネット上で否定的な意見が多いように感じるのはうがった見方かもしれませんが)

■なぜ電通はVODサービスに取り組むのか

さて、ここであらためて考えてみたいのが、なぜ電通がこの有料課金型VODを推進するのかという論点です。個人的な印象ですが、民放5社のとりまとめは簡単ではなかったように感じます。それをやってでも電通にとって得られるメリットは何なのか。

電通のリリースでは「テレビ番組の視聴者層を拡大し、テレビ番組のファンを増やす」とありますが、やはりここにはTV広告を拡大させるという意図があると考えるのが自然だと思います。そもそもこのVODサービスが純粋に視聴者からの60分番組1本で300円という課金だけで成立するのか、課金+広告というビジネスモデルなのかは現時点では不明ですが、電通が絡んでいることを考えると後者となるように思います。では広告をどんな形で入れてくるのか、実はこのVODのニュース発表の数日前にあるリリースを発表しています。
電通とジュピターテレコム(J:COM) VOD サービスにおける新たな広告モデル『CM 割』を開始|電通

中身を要約すると、JCOMのVODサービスで、企業のCMを視聴すると視聴料が割り引きとなる広告モデル「CM割」を9月1日から3か月間試験的に始めるとのことで、割引は105円。このニュースを報じたAdverTimes(アドタイ)によれば、視聴料は60分のテレビ番組で315円とあります。
CM視聴で視聴料105円割り引き 電通とJCOM、VODで新たな広告モデル|AdverTimes(アドタイ)

60分番組が300円程度。これで電通の意図も見えてくるのではないでしょうか。つまり、これは偶然の一致ではなく、民放5社とのVODを考慮した上での広告モデル構築のためのパイロットテストではないかと思います。JCOMと取り組んでいる試験サービスでは、既存のTVの広告モデルよりもう一歩踏み込んでいる印象があります。というのは、用意されているCMは60秒~180秒の長尺版で(ジャンルの異なる8つのCMの中から見たいものを1つ選ぶ)、ユーザーは視聴後に簡単なアンケートが用意され、その後に番組視聴となるようです。電通の説明では、「視聴者は複数業種の中から自ら選んだCMを視聴するので好意を持って見てもらえる。また長尺タイプのCMを見てもらうことで、より商品・ブランド理解につながる」とあります。

個人的には、315円から105円の割引があってもまだ高いように気がしますが、広告無しの視聴を追加で課金するのではなく、広告ありを割引するという「引き算」の発想はなかなかおもしろい試みです。

■期待したいVODサービス

最後に、VODサービスに関してあらあめて思うことを少し。今回の発表では民放5×電通という組み合わせでしたが、これが電通ではなく例えばニコニコ動画やYouTubeだとどうなったか、これを少し考えてみます。YouTubeであれば、ユーザー数という規模のメリットがあります。つまり世界中にユーザーがいる。もちろん日本語のTV番組は基本的には日本語なのですが、Googleには音声翻訳やYouTubeへの自動字幕表示技術があります。もっと技術精度を上げる必要はありそうですが、この当たりをうまく活用すれば日本語番組を自動的にその国の言語で字幕表示させることも可能になることが期待できます。
Google、音声入力で57言語を翻訳できるアプリ『Google Translate』配信開始|Searchina
YouTube、日本語音声を認識して字幕を自動生成・表示する機能を追加|INTERNET Watch

グローバルに日本のTV番組を配信できるとして、アニメなど日本には有力なコンテンツがあります。あるいは四季折々の日本や文化遺産、観光地としてもアピールできるかもしれません。民放5社、あるいはNHKも含めた日本のコンテンツ資産をグローバルで普及しているYouTubeと組み合わせることで日本の良さを知ってもらえるかもしれない。あとはYouTube(Google)、TV局、コンテンツプロバイダー、広告主の各プレイヤー間でうまくマネタイズできる仕組みがあり、ユーザーにとっての優れたユーザーインターフェイスがある。これら価値に見合う価格体系。これくらいの構想であればわくわくするところなのですが。

※参考情報
民放キー局 5 社と電通が共同でVODサービスを推進|電通
テレビでネット動画も自在に 民放5社と電通、来春に|日本経済新聞(11年8月3日)
民放5社が新たなインターネットテレビを来春に実用化、専用テレビも同時発売|GIGAZINE
家電リサイクル法の施行状況|経済産業省
電通とジュピターテレコム(J:COM) VOD サービスにおける新たな広告モデル『CM 割』を開始|電通
CM視聴で視聴料105円割り引き 電通とJCOM、VODで新たな広告モデル|AdverTimes(アドタイ)
Google、音声入力で57言語を翻訳できるアプリ『Google Translate』配信開始|Searchina
YouTube、日本語音声を認識して字幕を自動生成・表示する機能を追加|INTERNET Watch

マクドナルドの経営戦略がおもしろい

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日経ビジネスで短期連載されていた「日本マクドナルド原田泳幸の経済教室」。今週の2011.8.1で最終回でしたが、なかなかおもしろい企画でした。マクドナルドの経営手法について、原田CEO(社長・会長CEOを兼任)本人が語るというものでした。

■原田経営の土台はQSC

第一回で紹介されたのが原田経営の考え方。04年に原田氏がCEOに就任した当時、マクドナルドは7年連続で既存点売上高が落ち続けるという状態でした。その後、結果的には7年連続で同売上が上がり続けることになり、10年12月期決算では経常利益が上場以来最高益を更新するのですが、「どん底」であったCEO就任当時にまず取り組んだことが、「マクドナルドらしさ」に立ち返ることだったそうです。

ではマクドナルドらしさとは何か。記事では、QSC(Quality:品質、Service:サービス、Cleanliness:清潔さ)という同社の考え方が紹介されていました。すなわち、おいしく、清潔で、サービスの質が高い店舗に顧客が集まるということ。

では、QSCという「品質・サービス・清潔さ」を向上するために何をしたのか。まず取り組んだことは従業員満足度を上げることでした。従業員満足度を向上させるのは、離職率を低下させるためで、原田氏曰く、離職率が下がれば、ノウハウを持ちモチベーションの高い従業員が長く働くことになる、ひいては店舗のQSCが上がるのだそうです。原田氏は、一般論として企業というのは「らしさ」を忘れて不振に陥り、「らしさ」を取り戻して復活するものだ、と語っています。品質・サービス・清潔さという「マクドナルドらしさ」。記事からは、この土台をまずは築くことに徹底してこだわったという印象を受けました。

■勝つためには「順序」がある

原田氏は、勝つためには「順序(シーケンス)」があると言います。まずは土台があり、土台の上に柱を建て、柱がないのに壁は張れないという考え方で、ある戦術を実行するためには、その戦術を実行できる環境を整えておかなくてはならないという考え方です。

日経ビジネスの記事では、QSCというマクドナルドの「土台」をつくった後のシーケンスが紹介されています。次に行ったのが100円メニューの導入でした。その後の展開は、「えびフィレオ」投入、価格改定(値上げ)、「メガマック」投入と続きます。

ここに原田氏のシーケンス(順序)の意図が見て取れます。それは、1.価値を固め、2.客数の増加、3.客単価の増加です。QSC向上により、顧客の中に「おいしい・きれい・サービスがいい」という認識が生まれ価値を固める。この次が100円メニューの導入だったわけですが、この狙いは客数の増加です。実は100円メニューをつくるという実質的な値下げであり客数は増加しましたが、(100円メニューを客が注文することで)客単価は下がったようです。だからこそ次の施策が重要で、「えびフィレオ」、価格改定(値上げ)、「メガマック」を投入することで、客単価の増加を狙っています。

売上高=客数×客単価という基本に忠実に従っていますが、特徴的なのはそこに時間軸があることだと思いました。マクドナルドの戦略は、はじめに客単価を下げてでも客数を増加させること、100円メニューで客数を取り戻した後に付加価値の高い商品を投入することで客単価を増加させる、QSC向上⇒100円メニュー⇒値上げというシーケンスは必然だったと原田氏は語っています。パズルを1つひとつ組んでいくように、戦略実行のシーケンスを考えるのが経営戦略だというのが同氏の言葉です。

■過去の購買履歴にもとづくマクドナルドの個人クーポン

ちょっと前ですが、日経新聞の記事に『マクドナルドが「個人仕様」のクーポン 購買履歴で差』(11年7月13日)というものがありました。記事によれば、日本マクドナルドは、一人ひとりの顧客の購買特徴に合わせ、割引する新たな電子クーポンの配信を始めるとのこと。携帯電話サイト会員のうち1000万人の購買履歴を分析することで、コーヒーやハンバーガーなど割引商品の内容や送信時間が一律ではない「個人仕様」のクーポンを提供するようです。顧客ごとに割引内容を変えるクーポンというのは珍しい事例です。

例えば個人クーポンはこんな感じです。
・一定期間、来店していない顧客には以前よく購入していたハンバーガーを無料などで提供するクーポン
・販売中の新製品の購入経験がない顧客には半額のクーポンを配布し試してもらう
・週末の昼食時にコーヒーを購入する頻度が高い人には、土曜の朝にコーヒーの割引クーポン

仮に個人クーポンが活性化できれば、客数の増加が見込めます。一定期間来店していない顧客へのクーポンはまさにそれです。過去の購買履歴データから、クーポンという形で行なう「次の提案」。しかも顧客それぞれで異なるのです。いかに個々人で嗜好の違う消費者に購買履歴からレコメンドが提示できるか、ここが最大のキモであり同時に難しさだと思います。

■あのニュースもシーケンスで考えると見えてくる?

クーポンというからには、半額だったりあるいは無料だったりということで客数の増加が期待できます。ただ一方で、それだけでは客単価は低下する可能性があるようにも思いました。この状況は、先に書いた100円メニュー⇒付加価値の高い商品投入で値上げ=客単価増、というシーケンスに似ているのではないでしょうか。

マクドナルドの今回の個人クーポンの取り組みはなかなかに興味深いものです。そしてその裏にあるマクドナルドのシーケンス、すなわち次の客単価の増加への施策はどう出てくるか。ちょっと注目しておきたいですね。それはもしかしたら、このニュースもシーケンスのワンピースなのかもしれません。
マクドナルド/六本木ヒルズに新世代デザインの旗艦店オープン|流通ニュース

マクドナルドのニュースリリースには、六本木店に対して次のように言及されているのですから。
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マクドナルドでは、お客様から商品やサービスなど常に高いクオリティが要求されるこのエリアにおいても、「100円マック」などのレギュラーメニューはそのままに、これまで以上のお得感(ベストバリュー・フォー・マネー)を感じていただけるよう質の高い商品、サービスを提供してまいります。
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都心型新世代デザイン店舗 旗艦店 「六本木ヒルズ店」をオープン|日本マクドナルドホールディングス ニュースリリース

■最後に

今回取り上げた日経ビジネスの記事内にあった原田氏の言葉で印象的だったものを引用しておきます。

発想は大胆でありたいと思っています。でも実行は慎重に。

何か新しいことを始めようという時には、徹底してデータを集めて検証しながら物事を進めます。だから数字は大好きですよ。無機的に見える数字の羅列には、本当は有機的な意味が隠されていますから。

改革というと、みんなコスト削減から始めるじゃないですか。そんなの誰だってできますよ。コスト削減ほど易しい経営はない。僕はこう言うんです。「コストをカットをするな。もっとお金の使い方の提案を持ってこい」。お金を使ってもっと売る方法を考えろ、ということですね。経営とは、要はお金の使い方を考えることだと私は思っているんです。

大事なのは、本当に顧客が求めているもの、顧客自身ひょっとしたら気づいていないかもしれない真相的なニーズを見抜くビジネス・インサイト、洞察です。

コンシューマー(消費者)の心を引くために大事なのは、いい意味でお客さんの期待を裏切ること。驚かせることです。


※参考情報
日本マクドナルド原田泳幸の経済教室|日経ビジネス
マクドナルドが「個人仕様」のクーポン 購買履歴で差|日本経済新聞(11年7月13日)
マクドナルド/六本木ヒルズに新世代デザインの旗艦店オープン|流通ニュース
都心型新世代デザイン店舗 旗艦店 「六本木ヒルズ店」をオープン|日本マクドナルドホールディングス ニュースリリース