Amazonに期待したい「書籍+iTunes Match」という読書体験 | 思考の整理日記 - アメブロ時代

Amazonに期待したい「書籍+iTunes Match」という読書体験

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ようやくという感じですが、ちょっとわくわくするニュースです。日経新聞の報道によると、アマゾンが年内にも日本での電子書籍事業に参入するとのことです。
アマゾン、年内にも日本で電子書籍 出版社と価格詰め|日本経済新聞

日経が単独でスクープをするようなニュースはやや不安になることもあるのですが、記事を見るとPHP研究所とは契約に合意し、小学館、集英社、講談社、新潮社などととも現在交渉中とわりと具体的に書かれており、アマゾンの電子書籍での日本進出が今度こそはと期待できる内容です。

■3層で強みを持つAmazon

思考の整理日記-111022 国内の主な電子書籍配信サイトすでに日本国内では電子書籍の市場は存在し、少なくない企業が参入を果たしている状況で、具体的には右表のような状況です(引用:上記日経記事)。とは言っても市場規模は650億円程度(10年度)で、書籍・雑誌全体での約2兆円規模に比べるとまだまだ小さい印象です(数字は同じく日経記事から)。

ニーズがあると思われるににもかかわらず普及が進まないのは、1.そもそも電子書籍というコンテンツが少なく、2.電子書籍端末の互換性も十分ではなく、3.購入するマーケットも乱立しているという、コンテンツ・端末・マーケットプラットフォームという3層それぞれでユーザーにとって魅力を感じないからではないでしょうか。結局、紙の本を買う方が総合的には良く、それに比べて電子書籍で読むということにメリットが感じられないのです。

ところが、これがアマゾンであれば違います。もちろん、前述のような幅広い出版社との契約合意が前提ですが、電子書籍は自社サイトを通じて提供されます。それもPCだけではなく、タプレットやモバイルからブラウザかアプリのどちらからでも買えます。端末についても、専用のキンドルがあり、キンドルを持っていなくてもiPhone/iPad、Android用のアプリも提供しているので、幅広い端末から読むことができます。アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは端末やサービスを普及させることを重視し、利益の回収は普及後でいいという経営戦略の持ち主と言われます。アマゾンから販売されるタブレットPCであるKindle Fireの定価は199ドルで、実は製造コストはそれ以上の209ドルではないかという情報もあります。これは1台売るごとに10ドルの赤字が発生します。Amazon’s $199 Kindle Fire Costs $209.63 to Make [STUDY]|Mashable
これは1例ですが、日本においても参入すると決めた以上は、コンテンツ・端末・マーケットというアマゾンの電子書籍サービスをまずは普及させるような展開をしてくるはずです。だからアマゾンの国内参入は、ようやく本命がきたかと期待したくなります。

■Appleが提供するiTunes Matchの意味

ところで、これは現在はアメリカのみ利用可能なのですが、「iTunes Match」というアップルのサービスがあります。iTunes Matchは、自分が持っているCDからiTunesに取り込んだ音楽を、iTunesミュージックストアで提供している楽曲と照合させ、マッチすればその曲はiPhone・iPad・iPodなどの全端末でダウンロードできるようになるというものです。つまり、iTunesに入っている自分でCDから取り込んだ曲でも、全てミュージックストアから買ったものとして扱われることになります。

一見するとこのサービスはあまりメリットがないようにも映ります。ダウンロードした曲もCDから取り込んだ曲も、自分が聞く時にはどちらも好きな音楽には違いないのですから。ただ、iTunes Matchが興味深いのはその考え方にあると思っています。というのは、iTunesマッチがなければ、すでにCDで取り込んだ曲でも同じ曲をiTunesミュージックストアから買ってダウンロードする場合、1曲150円とかのコンテンツ料金が発生します。CDもダウンロードも同じ曲にもかかわらずです。ところがiTunesマッチでは、「すでにCDで買っているんだから、同じ曲をミュージックストアからも別途金額は発生せずにダウンロードできますよ」という考え方。同じ曲にCDとダウンロードとに二重でお金を払うのではなく、「その曲を聴く権利を買う」というようなイメージです。

■「書籍+iTunes Match」という読書体験

話がアマゾンの電子書籍からiTunesマッチに逸れていたので、電子書籍に戻します。もしiTunesマッチのような考え方が電子書籍に適用できればどうなるでしょうか。考え方は「その本を読む権利を買う」こと。具体的には、今手元にあり参考にしている「iCloudとクラウドメディアの夜明け」(本田雅一 ソフトバンク新書)という書籍を紙の本で買えば、電子書籍版でも同じ本が手に入るというイメージです。この本を読む権利を買ったということなので、一度紙で買えば電子版を別途料金で払う必要がなくなる。逆のパターンもあり得るので、電子版を先に買って紙の本を後から無料で入手するという感じです。仕組みとしては、アマゾンの個人IDで紐付し、どの本を買っているかの管理することになります。

電子書籍を読んでいての印象ですが、紙の本と比べメリット/デメリットがあり、どちらの形式が絶対的に良いという感じではありません。紙は持ち運びや本の中から必要な情報を取り出すのに難がありますが、速読性や全体像の把握は紙が勝ります。電子書籍コンテンツや媒体はまだまだこれから仕組みも技術も進化するのでしょうが、それでも紙の本は一定程度は存続するのではないかと思います。将来的には主流は電子書籍になるのかもしれませんが。であれば、上記のような書籍でもiTunesマッチのような仕組みがあれば、一読書好きとしてはかなり魅力があります。大事なのは、読書をするシーンや目的に合った読書の仕方が用意され、各個人それぞれがストレスなく享受できることです。読みたい本を、読みたい時に。アマゾンにはそんな読書体験の実現を期待したいのです。


※参考情報

アマゾン、年内にも日本で電子書籍 出版社と価格詰め|日本経済新聞
Amazon’s $199 Kindle Fire Costs $209.63 to Make [STUDY]|Mashable
Appleの「iCloud」と「iTunes Match」でできること|ITmedia エンタープライズ
「黒船」アマゾン来襲を前にして日本の電子書籍は壊滅状態|エコノMIX異論正論


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