乾いた指で殻は破れるか
銀色のどろりの中で もう暫く考えている
唇は何度も舐めたもんだからすっかり滑らかさが無くなっているし 身体の表面はかさかさしてきた
わたしは卵を6つ産んで、そのうちの4つは寝返りで重みをかけてしまったりわたしたちの周りを守っている銀色の液体に沈んでしまったりしたから残りの2つを鼻先でつついて目覚めるのを促す
(彼らがうまくこの世の中と対面したら。)
銀色に溺れさせないように2つ、肌の乾いたところにのせた
前に落ちてしまった卵は2日後に黒ずんで厭な臭いを発したのだ
(私の小指の先からぽりぽりとかじらせて、まんべんなく栄養となるようにしよう)
そんな事を10年以上もぐるぐる考えるのが日常になった
つまり彼らはもしかしたらもう出てくる元気は失っているかもしれないのだ
頬に触れるとぼろっと塊が剥がれて銀色にゆっくりと沈んでいった
脚も自慢の髪も人差し指ももう同じように無くなってしまった
(みんなはちゃんと孵化させたのかしら)
わたしは産むなら美しい場所と決めていたのでこの、月光を集めたような銀色の湖を選んだのだった
他の女の子達は温かい湧き水や透明に澄んだ湖へ向かったからわたしの周りには話す相手もいなかった
まだ全身がしっかりしている頃、手足が痙攣して動きにくくなったのも 舌がもつれた翌日には口が開かなくなったのもお月様のお怒りを買ったのだろうか
縮こまった腕に銀色の球体を飛び散らせながら今日も小指のことを考えて幸せになっている
唇は何度も舐めたもんだからすっかり滑らかさが無くなっているし 身体の表面はかさかさしてきた
わたしは卵を6つ産んで、そのうちの4つは寝返りで重みをかけてしまったりわたしたちの周りを守っている銀色の液体に沈んでしまったりしたから残りの2つを鼻先でつついて目覚めるのを促す
(彼らがうまくこの世の中と対面したら。)
銀色に溺れさせないように2つ、肌の乾いたところにのせた
前に落ちてしまった卵は2日後に黒ずんで厭な臭いを発したのだ
(私の小指の先からぽりぽりとかじらせて、まんべんなく栄養となるようにしよう)
そんな事を10年以上もぐるぐる考えるのが日常になった
つまり彼らはもしかしたらもう出てくる元気は失っているかもしれないのだ
頬に触れるとぼろっと塊が剥がれて銀色にゆっくりと沈んでいった
脚も自慢の髪も人差し指ももう同じように無くなってしまった
(みんなはちゃんと孵化させたのかしら)
わたしは産むなら美しい場所と決めていたのでこの、月光を集めたような銀色の湖を選んだのだった
他の女の子達は温かい湧き水や透明に澄んだ湖へ向かったからわたしの周りには話す相手もいなかった
まだ全身がしっかりしている頃、手足が痙攣して動きにくくなったのも 舌がもつれた翌日には口が開かなくなったのもお月様のお怒りを買ったのだろうか
縮こまった腕に銀色の球体を飛び散らせながら今日も小指のことを考えて幸せになっている
突然真夜中に
布団に入ってからやっぱり寝るのがもったいない日な気がして台所の電気を付けた。
トントントン 小刻みに小気味良い音で全部を切り終えたら、小麦とクリームからこしらえたソースと絡める。
あとは 弱火でとろとろと。
「綺麗に食べる練習しようか」
言われると、とてもこそばゆかった。
ぼんやりした記憶と包丁の背を指でなぞりながら煮えるのを待っている。
野菜は最初に蒸した方が良かったかしら
でも蒸し野菜ならバーニャカウダにしたい
美味しいソースに誰かと何か付けて美味しいねって食べるともっと美味しい。
綺麗に食べるのも魅力だけれど
美味しそうに食べる顔がなにより、ごちそう
幸せは噛みしめない。ここでは噛みしめるという行為の幸せが只、あるのみ。
トントントン 小刻みに小気味良い音で全部を切り終えたら、小麦とクリームからこしらえたソースと絡める。
あとは 弱火でとろとろと。
「綺麗に食べる練習しようか」
言われると、とてもこそばゆかった。
ぼんやりした記憶と包丁の背を指でなぞりながら煮えるのを待っている。
野菜は最初に蒸した方が良かったかしら
でも蒸し野菜ならバーニャカウダにしたい
美味しいソースに誰かと何か付けて美味しいねって食べるともっと美味しい。
綺麗に食べるのも魅力だけれど
美味しそうに食べる顔がなにより、ごちそう
幸せは噛みしめない。ここでは噛みしめるという行為の幸せが只、あるのみ。
in You.2
PM6:15
バスタブにお湯をためる時は自分が中に入ってからの方が好きだった。
私にも充電されている感じ?
と笑いながら言ってもあいつは
何それ。
と頭を洗う手を止めないまま疑問系ではなく言うような人だったので、みゆきは黙っていた。
どばぁぁぁぁぁ すぐ近くに水音を聞きながら蛇口の下で体育座りをする時、尻から腰へ 足首から膝へ上がってくる水位が、生まれる前など覚えていないはずなのになんだかそれに近いような気もして あいつが突然帰ってこない朝などは特に勢い良く水道を捻った。
人間の70%は水だというからこうやって湯が増えていくうちに私は水+水。170%以上は水水なわけで、あいつと一緒に入ったら水水水で240%。生き物から排出される水は常にあるのですからあなたの水は私の水で私が銭湯とか海が嫌いなのはこれ。
身体を洗い終わった時点でまたヴヴヴと呼ばれて、いなくなる前のあいつはよくこの時間に 今日、飯なに とか かっこいい服買いました とか電話を寄越していたのでバスタオルで耳と指先だけ拭ってから通話を押した。
みゆき と言われて、舌を前歯に打ちつける。
なに、機嫌悪い?
別に。お風呂入ってた。
ごめん 間悪いってよく言われんだよね、俺。
もう倒置法の一人称を使うなっての。
みゆきと呼ぶのは店の客だけで、みゆきの本名は全然違うものだったから、淡い高鳴りが損したように感じられる。
この男があまり上品でないフレンチレストランで店員に「です」も「ます」も使わなかった時と同じ声色になった。
これから化粧すんの。クリーニング取りに行かなきゃいけないし。今日は一時まで上がれないから。
そこまで一息に吐き出すと、男は
でもみゆきは自分から連絡したのは最初の2回と酔っぱらって夜中にかけてくるような時だけだし俺はこないだも泊まってもいいわよって言われたからホテル取って待ってたのにみゆきは気が変わってタクシーで家に帰ってしまった
などとぐにゃぐにゃ管をまいていたのだが、そういう恨み言を口に出す男の人は格好悪いとパンチを食らわせてから切った。
風呂場に戻ると、湯気がぼわぼわしていてせっかく洗った背中から汗が吹き出る。緊急にガムテープで何層にも重ねてある排水口はじっとりした臭いを蓄えているし。
栓、見つからなかったら私は湯船に入れないんだ。
最近だるだるしてしまうのは、水に包まれるあの感覚が無いからかもしれなかった。
みゆきはガムテープを剥がして団子にしながら水道をひねり、バスタブに溜まった塵を洗い流した。それからいつものように体育座りをして膝に顔を埋める。濡れた髪が顔に張り付いてくる。
このままもし水に溶けたら。浸透圧で私の中の水が外に出てこの排水口を流れるよね。色んな嫌なものと一緒に私はパイプを通って行って、どこか外に出たら一部は蒸発し始めるかもしれない。それで、何日かして雨が降って汲み上げられて綺麗にされます。あなたが起きた時に飲むコップ一杯の水に入ったとしたら、私は透明でしたか。
塞いでいない穴はいくらでも湯を飲み、みゆきもいい加減に温まってきた。
多分。
頭の中に湯せん用のボウルが出てきたのを押し戻しながら考える。
塞がらないこのバスタブにはあの栓じゃなきゃ全然だめで、今の家を決めた時に最後まで慣れなかったのは誰か家に血のつながりのない生き物がいることではなくこのバスタブ。
こうやって毎日毎日お湯に打たれることでよくわからないけれど私の一部が剥がれてバスタブに付着してこれこそこの私のお風呂場。
心臓がせり上がってくる気持ちがして、これ まずいなぁ と感じた時にはみゆきの顔はびしょ濡れだった。
外で電話が呼んでいる。みゆきは今度は手も髪も拭かないで洗面所に転がり出ると、通話ボタンを押す。
みゆき、今日俺やっぱ店に行くよ。ていうかやっぱ会わなさすぎだしさ。
…え、嘘、泣いてんの?
どうしたの?
耳元で水あめが糸を引かなくなるまでみゆきの喉は絞られていて、何か言わなきゃと思うのだけれど、口から出たのは
来て。来て来て来て来て絶対来て
というもので瞬間、2人とも面食らって沈黙した。
髪の毛から伝わってくる水と どうしたんだよという大味なもったりとした声が絡まって耳の中でわんわんと煩かったので、みゆきは もう栓は絶対に見つからないと確信して 産まれた時のように泣いた。
