「敵は引かないようだな」硬い革鎧を着て、着剣しているモト王が執事のチンに言った。
「なるべく犠牲を出したくはないのですが」チンが言った。
「お前は優しすぎる。俺は帝国軍にかける情けなど持ち合わせていない。それが悪魔として生まれ落ちた者の定めだ。お前だって、その力に目覚めていて、俺達を救えるのは俺達自身だけだということをわかっているのだろう?」モト王が冷たい笑みを浮かべる。
事実、モト王の肉体はその力に目覚めた32歳のまま13年が経っている。チンもその力に目覚めた21歳のまま7年が経っている。モトが帝国貴族時代に買った奴隷は皆、悪魔として生まれ落ちた者である。
「確かに王のおっしゃるとおりであり頭では理解しているのですが、自分はどうしても命のやりとりが不得手で」チンが戸惑う。チンも硬い革鎧を着て着剣こそしているが、こっちから仕掛けようという殺意はかけらもないようだ。
「俺達の祖先は北の大地からこの灼熱のカルタヒアに連れて来られ、悪魔との契約か死を選ばされた。そして呪いと引き換えに生き残った者達が交わした契約が俺達が生まれ落ちたそ
の日から俺たちを縛り付けている。この呪われた大地に」モト王はそう言うと脚を組み替えた。
親しき中にも礼節を重んじるモト王が玉座で足を組むのは執事のチンの前でだけだ。誰かがドアを叩く。モトが脚を解いたのを確認してからチンが扉を開く。
「戦いが始まりました」前線からの伝令兵が伝えた。(つづ く)