「耳がへんになってきた...!」
助手席の彼女は、しきりに辺りを見渡している
峠の道中ずっと、小動物を探しているらしい
「栃木にはお猿さんが、いっぱいいたんだけどね」
ぼくは連続する急カーブと、対向のバスに気を取られている
いつもよりさらに、口数が多い彼女
ぼくはあまり返事をしないで、微笑んでいた
宮ノ下
ぼくは薄く澄んだ空気をお腹いっぱいに吸い込みながら、肩甲骨を持ち上げ、
ストンと脱力した
チェックインにはまだ1時間ちょっとある
彼女はボンネットに伏し、暖をとっていた。猫みたいだ
左頬がすこし赤くなった彼女の手を引き
西洋への憧憬と、アイデンティティの狭間
荘厳な装飾に、どこか悲しさを纏う佇まいの明治建築、富士屋ホテル
陰影に富んだワインレッドの内装を、彼女は気に入ったみたいだ
革張りのソファに沈んだ彼女を置いて、レストランの予約をした
先約が2組いるようで、おそらく15分程度待つらしい
彼女のいたはずのソファに腰を下ろし、すこし辺りを見回してから、iPhoneを開いた
しばらくして、
箱根のご当地キティを2つ買ってきた彼女
何かにつけてね、とぼくに要求する
ぼくは少し苦笑いして
タオルを頭に巻いたキティちゃんを、バッグの小さなポケットにしまった
彼女の天真爛漫さが、ぼくは大好きだ
7年後、ぼくと同じ年齢になったとしても、変わらないでいて欲しいなんて、
老生じみたことを思っているうちに、彼女の、少し珍しい名字が、どこかから呼ばれた
サフランの効いた、少し甘めのシーフード・カレーに満足したぼくたちは、
何枚かふたりの写真を撮って、ホテルを出た
富士屋ホテルからは目と鼻の先の
ぼくたちが泊まる、箱根離宮の道縁に車を止めてから、少し長いキスをした
嬉しさを、量的に伝えたかったと彼女は言った
「量的にか、明日は一日中キスしてないといけないの?」
「しまった、これからがすっごいんだったね」と彼女は笑った
長いスロープを下り駐車し
数メートルとも高いエントランスをくぐる
今日は最高の1日になると、確信した
続く
はあ、全部妄想...