7 私の行動


「ピンポ~ン♪」
私がバスルームから出るとチャイムが鳴っていた。
「彼かしら」
「ピンポ~ン♪」
ドアを開けようと玄関に向かうともう一度チャイムが鳴った。
「えっ?彼なら鍵を持っているはずだわ」
私はインターフォンの受話器を取った。
「はい。どなた様ですか?」
「あっ、奥さんですか?置き薬のご案内なんですが・・・」

「結構です。」


奥さんと言われて複雑な気持ちだったが、断った。タイミングが悪いわよ!
「よかったわ。ドアを開けないで。」
私はタオルを巻いただけの姿だった。

「彼はどこまで行ったのかなぁ。」
ベッドルームに入って固まってしまった。あまりの驚きに声も出なかった。
彼がベッドで死んでいる。
いや、寝息が聞こえるので死んだように眠っているの間違えだった。
彼の名前を呼んでも体を揺すっても頬をつねってもひっぱたいても、彼は起きなかった。
「どうしよう。救急車を呼んだ方が良いのかしら・・・」
その時、枕もとに何かの説明書と『宝船の絵』があるのに気がついた。
「なに!?これ!?」
私はその説明書を読んでみた。

説明書『注意!ポケットに入れた夢の種に関係がある夢は必ずしも良い夢とは限りません』
これが『夢見る枕』です。このポケットにあなたが見たい夢の種。例えば写真などを入れて寝れば見たい夢が見られるのです。
その時には同封の『宝船の絵』も一緒に入れてください。
入れ忘れると夢から帰って来られませんのでお忘れなく!

私は彼の頭の下から枕を引っ張り出してポケットの中から写真を取り出した。
「私の夢を見たかったんだ・・・」
嬉しかったがそれどころではなかった。『夢見る枕』だなんて・・・
私は枕のポケットにその写真と『宝船の絵』を入れて眠ることにした。
「待ってて。今、迎えに行くから」
何時間かかっても眠らないと・・・  



    8 俺と彼女
俺は島の中央の山と呼ぶには低過ぎる丘にほとんど使用しない更衣室で寝ていた。
水泳には自信があったが泳いで帰ろうとは思わなかった。
「そういえば以前なかなか進まない台風があったな・・・」
こういう時は悪い記憶しか浮かんでこないものなのか・・・
「彼女と一緒にガラス工芸センターに行っていればなぁ・・・」
寂しさと不安を打ち消したいからか声に出して言っていた。
「でしょう。」
彼女だった。
「どうやって来たんだい?」
「台風は通り過ぎたわよ。センターの人に頼んで船を出してもらったの。さあ帰りましょう?」
俺は何時間眠っていたのだろう・・・
あの空には満天の星が浮かび上がっていた。
「帰りたくなくなったよ」
俺の言葉に彼女は呆れていた。

その夜、俺はなかなか寝付けなかった。島で寝過ぎたのかもしれない。
彼女は俺の隣で幸せそうに寝息をたてていた。
どんな夢を見ているのだろう?
一つの枕で一緒に寝ると同じ夢が見られたら面白いのになぁ・・・
それよりも現実として二人の夢を一緒に叶えていけるようになる方がいいか・・・
クリスマスにプロポーズしようかな・・・
早めにレストランを予約しなきゃ・・・


       9 二人の目覚め
「ピンポ~ン♪」
チャイムが鳴った。
俺と彼女は同時に目が覚めた。
「何かのセールスかな?あれ?君、何処にいってたんだい?」
「ドラッグストアーよ。」
「駅じゃなかったんだ。そうだ!君に聞きたい事があるんだ。クリスマスの夜、何であんな事を言ったんだい?」
「この関係、終わりにしたい。」って?
「あっ!そうか!」俺は勘違いに気がついた。
「早とちりな俺だけど、これから毎朝起こしてもらえませんか?」
「それってプロポーズ?」
「だめかな?」
「そうね、一人じゃ起きられないみたいよね。」
「やった!」
俺は彼女に抱きついた。
「ところでドラッグストアーに何を買い行ったんだい?」
「妊娠検査薬」

彼女はトイレから出て来ると何も言わずに左右の手で対称にOKマークを作った。
「やった!」
俺は再び彼女に抱きついた。
「乾杯しよう!君が沖縄で作ったグラスで!」
「私はしばらくアルコールはひかえるわ。」
彼女は愛しそうに自分のお腹を撫でた。
俺は自分の頬をつねろうとしたが既につねられたような感覚があった。
「これって夢じゃないよね!?」

「ピンポ~ン♪ピンポ~ン♪ピンポ~ン♪・・・・・・」

今の状況が『夢』ならば・・・
あなたは早く目覚めたいですか?

それともこのままで良いですか?


つづかない