今日は私にとってとても特別な日です。

 

 

 

私は、私の心に潜む、

大きな苦くて甘い、痛くてたまらないものを抱きしめながらエマを育てていました。

 

 

 

長女の笑顔は、未亡人になった私の心を、まるで手のひらで氷を溶かしていくように、

ゆっくりと、じんわりと、液体になって私の心身に沁み込んでいきました。

 

 

 

でも、まだ若かった私は、

その幸せもどこか期限付きのような気がしていました。

 

 

 

いつだって、まるで、氷点下の水面を覆う薄氷のような

今にも割れそうで若干冷たくて寂しい、

そんな泡沫で儚いもののような気がしていました。

 

 

 

そんな時、

知人に夫(ヒロシ)を紹介され、会ったその日にヒロシに求婚、プロポーズされました。

 

 

 

 

でも、

ものすごく悩みました。

別に私は一回りも二回りも年上の男性が好きで堪らないという性質でもありません。

でも初めてヒロシとファミレスで会ったとき

誰もが避けていたことを、ヒロシはオブラートに包むでもなく、

ズカズカと話して来たのです。

 

 

「身上書、読んだけど、旦那さんだった人が亡くなられたって・・・」

 

 

 

私は、まさかそのことについて触れて来られるとは思わなくて、言葉に詰まりました。

多分「あ、はい・・・」としか言えなかったはずです。

 

 

 

そして、ヒロシは、私の目をじっと見ながら、

「よく頑張って来たんですね」

そのようなことを言ってくれました。

 

 

 

泣き虫だった私に、生前、祖母が言いました。

「ハルちゃん。女の子はそう簡単に泣くもんじゃないよ。勿体ない。涙は心の底から嬉しかったときのためにとっておきなさいよ。心の底から嬉しかった時に泣くんだよ」

 

 

と。

だから私はそのとき、張りつめていた糸がちょっと緩んで涙が溢れだしそうでしたが、

我慢をしました。

ぎゅっと目と閉じていたら、頬を伝っていたかもしれません。

 

 

 

でも、目をパチっと開いて上を向いたりしているうちに、

涙はどこかへ行ってしまいました。

 

 

 

そして。

私は8年前の今日、サラと初めて会いました。

サラと初めて会った日です。

 

 

 

 

こんなどうしようもない私を、母にしてくれた二人の娘たちには、ありがとうしかありません。

 

 

 

夫も感動しており、

その日、1日産院に泊まった夫(エマはじじばばの家にお泊りさせてもらっていました)と、

サラを見つめて

それから夫と見つめ合った時間がありましたが

 

 

 

夫と私は、二人して目に涙らしい光の影を宿していたかと思います。

 

 

 

長女のエマからはおめでとうの手紙をもらいました。

入院中、その手紙に目を通すと、

一文字一文字読み進めていくごとに

文字は巴を描いて飛び散るように私の中で躍り輝いていました。

 

 

 

 

「ママありがとう」

 

 

たったこの一文だったのに。

 

 

 

 

 

サラ

ママのところに生まれてきてくれて、ありがとう。

ランドセル忘れてもいいけど、一年に一回くらいにしてね。

愛してる。

お誕生日おめでとう。

2020年8月5日。