12月24日である。
とても暑い。
海へ行ったら美しい魚たちが泳いでいたので、いや、魚ばかりでなく、美しい女性たちも寝そべっていたので隣で鼻の下を伸ばす当時の相方を横目に美しい景色に夢中になっているうちにすっかり背と肩が日に焼けてまっ赤になってしまった。
毎日こんなことをやっているので、もうほとんどやけど状態だ。
私はその熱い肩をヤシの木陰にかばいながら、さて今晩は何を食べようかと考え始めていた。
何しろ今日は、クリスマスイブなんだから。
南太平洋である。
ニューカレドニアに来ている。
(もう20年以上前の話になります)
数日来、ほとんどフランス料理ばかり食べている。合間に、中華料理を一、二度。
中華料理店はホテルの近くには一軒だけ。
あとのレストランは全部フランス料理の店ばかりだった。
ニューカレドニアはフランス領の島だし、フランス料理は好きだからいいのだが、値段が高いのが玉に瑕だ。そう、ほんとに高い。
島のあちこちを出来るだけ歩き回ってみたが、立ち食いのスナックやカフェは別にして、まともな食事が適当な値段で出来るレストランと言うのがどうやらこの島にはないらしい。
レストランというとたいていフランス料理で、料理の質や店の雰囲気に関わらず、どの店でも値段だけは一様に高い。
例えば現地の人はどんなお店でどんなものを食べているのだろう?
そう思って探してみたが無駄だった。
タクシーの運転手にそのことを話してみたら、
「そりゃそうさ」
と彼は真っ黒な顔で一笑した。
「だって僕ら外じゃ食べないもんね。町で働いているのはみんな出稼ぎみたいなもんだから。こうやって働いて、現金収入を得て、それで洋服を買ったりテレビを買ったりする。そしたらあとはもう村へ帰って暮らすのさ。海には魚がいるし、家の周りではイモが育つ。鶏や豚も飼っているしね。食費は一銭もかからないんだ。毎日村から町へ出勤している奴も多いよ。ま、昼ごはんは町でサンドイッチぐらい食べるけどさ!」
なるほどね。
経済は二重構造なのである。
一方に、現地の人達の、ほとんど自給自足に近い、お金のかからない生活。
もう一方に、この島に植民しているフランス人と、この島に大勢やってくる観光客をめぐる、国際的諸物価にもとづく生活。
両方の中間がない。
「料理が高いってそりゃそうさ。だって椅子からナイフからワインまでみ~んなフランス本国から運んでくるんだからね」
と白い歯を見せながらタクシーの運転手は笑った。
言われてみればどのレストランにもフランスのワインがあり、メニューにはヨーロッパじゃなければ手に入らない材料を使った料理があり、
店内はトロピカルだがフランス風だ。
じゃあ12月24日、イブに何を食べようか?
各レストランの前には貼り紙が出ており、
“クリスマスディナー、シャンパン付き〇〇〇フラン”
などと本日のメニューを宣伝している。
この常夏の南国だというのに、クリスマスとなるとやはり七面鳥のローストに栗のピューレを添えたものだとか、デザートは焚き木をかたどったビュッシュドノエルである。
私はほぼ下着のような私服姿にロングカーディガンを羽織り海辺のレストランのメニューを見て歩き、
相方が考えた結果、ホテルの近くの中華料理屋に行くことに決めた。
やっぱりクリスマスは寒くなくちゃ。
そんなことを思いながら相方と笑い合った。
純白のビーチと紺碧のラグーンが広がるニューカレドニア。
こういう陽気な国も好きだが、個人的にはもう少し憂いを含んだ場所が好みだ。