花が好きだという私に、

 

両手にいっぱいの黄色を抱えて車でやってきた。

 

「どうしたのこれ」

 

「きみ、花好きじゃない。似合うと思って。」

 

自宅にある花瓶だけでは飾り切れずに、即席で牛乳瓶を花器に見立て飾った。

 

全てを自宅に飾り終えると、目を細めて笑いながら

 

「はるは絶対にそうすると思ってた。これだけ持ってきた甲斐があったよ。部屋が明るくなったね」

 

と言う。

 

緩やかな午前の陽射しがレースのカーテン越しに部屋に入り、ミモザを揺らす。

 

純白のレースに鮮やかなほど映える黄色。

 

部屋に入り込んでくる風がほのかにその香りを乗せて、私たちの鼻先をくすぐる。

 

「強烈に香るわけじゃないのに、いい香りがするんだね。知らなかったよ」

 

お花のことなんて全然知らなかったあなたはそう言っていたっけ。

 

どうしてあの時、あのタイミングであれほど大量のミモザを私に贈ってくれたのか。

 

未だに分からないでいる。

 

おかげで私は毎年ミモザの幻を見る。

 

その後、二人だけの時間に、数センチ窓を開けたままカーテンだけを閉めた。

 

凪のように風が止まった部屋で、あなたが私に乗り上げてくるので、微かにむせ返る。

 

部屋にはミモザの香りがほのかに漂う。

 

肌を這う唇がくすぐったい。

 

そんなあなたの声を、今はもう思い出せないくらいになってしまった。

 

蝶々が気ままに自由に花から花へと移るように、私も気ままに生きてきてしまったのだろうかと思いを巡らせる。

 

湯舟の中でそんなことを考えながらいると、知らないうちにうつらうつらとしてしまい、

 

はっとして湯舟から出ると三足四足よろめいた。

 

目の前がぼんやりと白くなる。

 

湯気で紗がかかった浴室の鏡に、自分の身体が映る。

 

脱衣所の電気だけを付けて浴室の電気を消したまま入浴したため、

 

薄暗い明りに生白い身体がぼんやりと映る。

 

額から流れ落ちてくるお湯に軽く目を閉じると、

 

瞼の裏で今年もまた、黄色を大きく抱えたあなたの残像が見える。

 

毎年この季節になると、

 

たまゆらの幻を見る。

 

小さく揺れるミモザの羽毛一つ一つが、

 

まるでゆらゆらと舞う魂のように思えてしかたがない。

 

あなたを忘れられないわけではないし、未練があるわけでもない。

 

私はちゃんと前に進んでいるよ。

 

ただ、

 

今年もちゃんと命日が過ぎたねと、心の中でそっと手を合わせる。

 

リビングのテーブルから、

 

「ハル、おかわり!」

 

と、

 

俺は消えたりなどしないと強く主張し続けるマイペースなヒロシの声を聞きながら。