2019.12.27(金)(覚書)

彩と約29年ぶりに再会した日

 

 

待ち合わせ場所に来た彩は、小学6年生の頃の面影をしっかりと残す綺麗な顔立ちをしている。

 

しかしアレルギー体質なのか、肌はアトピーを患っている方特有の、少し赤らんでいる様子を持っている。

 

「久しぶり!」

 

「久しぶり、変わらないね、ハルちゃんは相変わらずだね」

 

「彩ちゃんも変わらない。すぐに彩ちゃんだってわかるよ、さ、とりあえず座ろっか」

 

私が促すと、おとなしげにうんと頷く彩ちゃん。

 

席につき、お互いに飲み物と軽食を注文した。

 

美味しそうなものを嬉々として注文しようとする私に対し、彩ちゃんはおとなしく

 

「あんまり食欲ないんだよね」

 

と言ってホットココアと小さな自家製パンのようなものを頼んだだけだった。

 

お互いの飲み物が席に届き、コーヒーの芳醇な香りが湯気とともに香ってくる

 

「そう、彩ちゃんの夢見てこうやって会えて嬉しいよ、ごめんね、急で。」

 

「ううん、こっちがお礼言わないといけないぐらいだよ」

 

そんな話をした。

 

長時間話をしたのだが、驚く内容ばかりで、途中から美味しい食事の味すら記憶にないほどだ。

 

彩ちゃんからの話をまとめるとこうだ。

 

結婚して5年。

 

お相手も学校の先生で、同じ学校に勤務していたときに、その学校長が冗談半分でお互いに独身同士なら、

 

付き合ってしまえばいいという冷やかしをしたらしい。

 

お互いにフリーだったことから、そこから付き合いが始まったという。

 

田舎育ちの長男だった彩ちゃんのご主人は早く子供が欲しかったという。

 

そしてまた、ご主人のご両親も、同じ気持ちでいたらしい。

 

しかし、普通に夫婦生活をしても、待てども暮らせども子供が出来なかったという。

 

最近ではもはや体の関係もないらしい。

 

そして、田舎のちゃんとした由緒あるお家に嫁がせてもらっておきながら、子供も産めない私は

 

旦那にとっても旦那の親にとっても厄介者でしかないと思い詰めていたという。

 

ご主人とも、仲が悪いというわけではないが、会話はなく、交わす会話は仕事の話ばかりだという。

 

「もうお役御免だし、41だし・・・生きてて意味あるのかなって思ったら、どんどん気持ちが落ちていって・・・」

 

と淡々と話してくれた。

 

「でも。ハルちゃんがこうして会おうとか突然言うから・・・作戦失敗。」

 

作戦?・w・;

 

離婚でもしようとしてたのか?

 

「作戦?」

 

「離婚しようと思って、もう自分の名前だけ書いた離婚届を持ってる。それに・・・」

 

声が震えている。

 

ふと彩ちゃんを見ると大きな目にたっぷりと涙を溜めている。

 

涙がこぼれていくのを堪えているのがわかる。

 

「うん、それで?」

 

「うん・・・本買ったの」

 

「うん」

 

「遺書の書き方っていう本」

 

・・・・・。

 

コーヒーが喉に詰まりそうな感覚に陥った。

 

「もう・・・28日・・・に・・・するって決めてて」

 

向かい合わせに座っていた席を静かに立ち、彩ちゃんの隣に座り、

 

とにかくそっと彩ちゃんの背中を擦ってみた。

 

彩ちゃんは堰を切ったように泣き始め、肩を震わせている。

 

「つらかったね・・・。誰にも言わなかったの?」

 

「うん・・・い・・・いえ・・ることじゃないし・・・」

 

そうだよね・・・・

 

死のうと思います、思ってます、なんて誰に言えるのか・・・

 

「彩ちゃんまだ子供欲しいの?」

 

「うん・・・旦那に、こども抱かせてあげたいって思ってる」

 

こんなにもご主人のことを思っているんだ・・・

 

胸が熱くなった。

 

と同時に、~したいという欲があるうちは、一縷の望みがあると何故か確信した。

 

私の友人の中に、彩ちゃんと少し似た経験談を持っている子がいる。その内容に沿って話をしてみた。

 

すると彩ちゃんは、とりあえず体が限界だから仕事を辞めたいのだと言っている。

 

それは私も賛成だ。

 

ろくな食事をとってないのだろう。痩せ細っている。

 

それから、ちゃんと仕事の話以外のことでも、ご主人と会話をしてみるといいと思った。

 

まだ頑張ってみたいというならば、私の友人が行っていた病院を紹介しようと思った。

 

総合医療センターだ。

 

とても親身になってくれた医師がいたと聞いていた。今もいらっしゃるといいのだが・・・。

 

彼女の話を聞き、店を出た。

 

午後から仕事に出るように夫に言われていたため、午後13時までには帰らなければいけない。

 

12時5分。

 

店を出ると彩ちゃんが体調不良を訴えて店内のトイレから出てこない。

 

困ったな・・・どうしようか。

 

お手洗いに行くと咳き込んでいる彼女の声が聞こえる。

 

あぁ・・・しまったな・・・一人で行かせるんじゃなかった・・・

 

「開けれる?彩ちゃん」

 

彼女はドアを開けて一瞬の作り笑いをして「ごめん」と言う。

 

大人二人がどうにか入るスペースがあったことから、私も彼女のいるお手洗いの後方に立ち、鍵をしめて背中を擦った。

 

「ご飯食べられないの?」

 

うんうんと頷きながら戻している。

 

「とりあえずここ出よう」

 

吐きそうなときは冷たい空気のほうがいいのだ。私もよくわかる。

 

オシャレなこのカフェはアンティーク調のストーブが出ており、暑いくらいだ。

 

外に出て少し話をした。

 

「遺書書いて・・・、死ぬって決めてからほとんど何も食べてなくて。死ぬのに食べたって無駄なだけだし」

 

「今もそう思うの?」

 

「思わない、ハルちゃんちの子に会ってみたい。でも久々にココアとか飲んで胃がびっくりしたんだと思う」

 

苦しそうだな・・・

 

背中を擦ると彼女はその場に屈みこんでしまった。

 

遺書の書き方・・・・

 

突然に怖くなった。

 

屈みこんでいる彩ちゃんが自分の娘のように感じてきた。

 

そしてご実家のお母様の笑顔が脳裏に浮かんだ。

 

「まだ気持ち悪い?」

 

「ううん大丈夫」

 

「今日私午後からどうしても仕事しなくちゃいけなくて・・・近いうちにうちに来れる?病院のこととか、仕事のこととか、美晴もいるから一緒に話さない?」

 

そういうと、どうしてもまた私に会いたいと言ってくれた。

 

次に会う約束もした。

 

そして、ちゃんと自宅に帰宅したという連絡をもらいホッとしている。

 

人とは本当に分からないものだ。

 

頭脳明晰で美人の彼女はどこからどうみても幸せそのものだが、蓋を開けてみるととても危うい綱を歩いていた。

 

美晴にも連絡をした。

 

とにかく・・・今頃になって手が震える思いがしている。

 

私はあのカフェで何を食べたっけな・・・

 

かろうじて食べたものが思い出せるほどで、

 

味がどうだったかなど思いも出せないでいる。

 

スマホで写真を撮って、このブログに食べたものを可愛く載せようなどと考えていたが、叶わなかった。

 

でもそのほうが良かったのかもしれない。

 

何も知らない私が、のうのうとコーヒーやケーキの写真を一人テンション高めに撮っていたら・・・

 

彼女は寂しくなっただろう。

 

次に会えるときまで、ゆっくりとメールでもし合おう。

 

そう言って別れた。

 

早く夫に会いたい。

 

なぜか分からないが、とても夫に甘えたい。

 

不安だった・・・。