長くお付き合いをした彼は腕時計好きだった。
当時の私は若かったこともあり、腕時計などの知識はない。
せいぜい「ロレックス」を知っている程度である。
だが彼の腕時計愛がものすごく、私に語ってくるその熱量がすごかったので、
私も少しずつ知っていくことになる。
そして彼とスイスを旅行した。
ほんとに色々な国に行ったものだ。
さほど行ってないと思っていたが、こうしてブログに思い出とともに書き綴ると、
何と思い出の多いことかと改めて感謝する。
彼はコレクターではなく、実際にちゃんと身に着けるものを買う主義だった。
オーデマ・ピゲ、ブレゲ、ヴァシュロンコンスタンタン、などが好きだったようだ。
「ロレックスはいかにもという感じだから」
と言っていた。
懐かしい思い出だ。
カルティエの腕時計を貰ったことがあった。
今は実家に眠っている。
腕時計よりも、その壮大な自然が創り上げる景色に心を奪われた。
「腕時計も素敵だけどこの景色最高だね」
と言うと彼は笑っていた。
「そうだね」と。
もう少し興味を持って話が出来ればよかったが、あの時の経験が、
接客業には生かされた。
お客様の腕時計を見て、話を振ると喜ばれることが多かった。
個人的にはブレゲのコインエッジの部分がとても好きで、ブレゲの話になると彼と目を輝かせながら話をした。
控えめながら洗練されたその造りはとても上品でかっこよかった。
身に着けた時にサイドからチラ見えするコインエッジに何度も美しいなと思った。
とにかくその技術力の高さには脱帽するばかり。
様々な分野で高度な技術が求められるが、腕時計の分野でのそれもまた、
とても魅力的だった。
ルツェルンのカペル橋に行った。
ロイス川にかかる橋なのだが、ヨーロッパでもっとも古い木造の橋だという。
実際に行くと古さは全く感じない。“古さ”は感じないが“歴史”はしっかりと感じることが出来る。
なんと美しいことか・・・。
橋の側面にはプランターがぎっしりと一定に並べて掛けてある。
見ると当時はゼラニウムとベゴニアの花だった。日本では温室内で育てるイメージだったので、
プランターに掛かったまま鮮やかな色の花を咲かせているゼラニウムとベゴニアを見てとても驚いた。
そしてグリンデルワルト村を歩いた。
絵に描いたような美しい村。
澄んだ空気に萌黄色の草草、
ピンと張りつめた冷たい空気と朝もや、朝もやが晴れると一気に青空が覗く。
ロープウェイがかかっており、他の村へ行けるようになっている。
草原にはヒツジが優雅に草を食べている。
なんという光景か。
思わずそこに立ち尽くしてじーっと景色を眺める。
都会的な建物はないが、木造の家々はどの造りも魅力的なものばかり。
窓や玄関には必ずおしゃれにプランターやプリザーブドの花が飾られていたのが印象的だった。
こんな大自然を目にしてしまったら、日ごろ私が持ってた悩みのなんとちっぽけなことか、
と思ったのを覚えている。
それでも人は贅沢な生き物で、日常に追われるとついつい不平や不満が溜まるものである・・・。
そのたびに私は、
いつか歩いたこの村の景色を思い出し思う。
有難い生活じゃないか、と。