5階のその部屋からはエッフェル塔が望めた。

 

まるでインテリア雑貨のように美しくそそり立つエッフェル塔に息を飲んだ。

 

「綺麗ね」

 

夜は光るのだな・・・知らなかった。

 

なんとも形が美しい。

 

私は今も、東京スカイツリーよりも断然東京タワー派である。

 

どう表現したらいいか分からないが、東京タワーには、色気がある。

 

エッフェル塔もまさにそうだった。

 

**

 

観光にも疲れたし寝ようか

 

とベッドで彼の腕枕に頭を預け、目を閉じていた。

 

眠りにつくまで、彼がゆっくりと、話を聞かせてくれる。

 

背中まである私の髪の毛を手で撫でながら。

 

明日の予定はハップハザードだよ!と言う。

 

知らない単語だったので目を開けて彼に質問をした。

 

「それどういう意味の単語?」

 

「偶然とか、思い切ってという意味があるんだよ、」

 

「そうなんだ。じゃあ日本語で言うところの、“行き当たりばったり”っていうことかな」

 

「なにそれ、呪文?」

 

笑笑

 

こんな些細な会話でいつまでも笑えていた。

 

「眠気が飛んで行っちゃったね」

 

「飛ばしたんだよ、僕が。こんな夜に君を抱けないなんて寂しいからね」

 

額をくっつけ、

 

お互いを見つめた。

 

お互いの鼻をよけあうように唇を重ねた。

 

それからはまるで溶ける様に二人で体を重ねた。

 

5階の窓の向こう側では、光るエッフェル塔だけが私たちを見ていた。

 

彼の背中が綺麗過ぎていつまでも離れたくなかった。

 

彼は自分の背中がこんなにも美しいことを知っているのだろうか。

 

彼自身は恐らく知らないだろう。この背中を一番よく知っているのは私だ。

 

そう思いながら私も彼を愛した。

 

彼の手が、

 

私の指が、

 

お互いの身体を凄艶な雪の上に嬉々として戯れ、此処を自由に、楽しんだ。

 

彼の手は、精巧に創りあげられた器具のように綺麗な手だった。

 

今でもその温度や匂いは忘れていない。

 

あまりの快楽に顔を窓に向ける。

 

体が幾度となく波打つ。窓の外のエッフェル塔と、きれいに磨かれた窓ガラスに映る二人の姿があった。

 

恥ずかしかった。

 

互いに、持て余すほどの欲情は今生まれたわけではなく、眠らせていただけだった。

 

私は彼と、砂地から水辺へ駆けるようにその行為の頂点へ落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めるとその景色は昨夜見た色気を纏ったエッフェル塔ではなく、

 

すっかりと清々しい空気に一変している。

 

彼が私にコーヒーを用意してくれているカップとソーサーがぶつかり合う陶器の音で目が覚めた。

 

夢も見なかった。

 

ふと見ると何も身につけていない。

 

ハっとして布団で体を覆うと、彼が笑った。

 

ホテルを出る前にシャワーを浴びたが、

 

シャワールームでも彼と一つになった。

 

シャワーから浴びるお湯なのではなく、彼を伝わり落ちてくるお湯を浴びていた。

 

大きな大きな彼に見事につつまれていた。

 

ダークブロンドの彼の髪が濡れ、

 

ヘーゼル色の瞳を輝かせていた。

 

私が彼に触れるたびに、少し苦悶の表情を浮かべる彼の顔がとても愛しかった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

懐かしい思い出話だ。

 

あのころに戻りたいと切に願うことはない。

 

ただ、今の私を作り上げてくれたエッセンスに過ぎない。

 

私はきっと、

 

今夜あたり、ヒロシに「えい!!」「えい!!」と言われながら過ごすのだろう

・w・