24歳季節は冬のころ

 

人生で初めて仮面舞踏会とやらに参加した。

 

トムとはもうお別れしていたが、かねてよりトムの仕事関係の知人だった男性とお付き合いをしていた。

 

彼は私よりも9歳年上の、やはりイギリス人男性だった。

 

彼はフランス語も日本語も英語も堪能で個人投資家のような仕事をしていた。

 

今でこそ、もう語ってしまえと思うが、彼はタイム誌などにもピックアップされたことがある若手のやり手ビジネスマンだった。

 

考え方や話し方、行動の仕方全てが新鮮で、

 

私は彼に興味津々だった。

 

彼が世界に掲げる目標が達成できるためなら何だってお手伝いしたいと思っていた。

 

そう思っていたが、彼にとって私は「ハルは何もしなくていい。ただ傍にいてくれればいい」な存在だった。

 

今でも心残りなのは、一緒に仕事がしてみたかった、という点だけである。

 

その彼が客船の中で行われる仮面舞踏会とまでは言わないが、仮面パーティーに参加するという。

 

そういう場は、結婚している人が参加するのなら、パートナーも決まって参加するらしい。

 

私たちは結婚こそしていなかったが、彼に誘いを受けたので、こんな機会は一生に一度あるかないかだと思い、

 

快くお受けした。

 

客船の中はそこが船の中なのだとはまるで感じさせない豪華な造りになっていた。

 

もっと若かった頃にレオナルドディカプリオのタイタニックという映画が流行った。

 

その時に見たタイタニック号のような、また、それを思わせる造りだった。

 

窓から入り込む陽の光までも計算されつくした造りになっているのだろう。

 

若く無知な私は多くの外国人貴族らしき女性の中でいかにも浮いた存在であるような気がして、

 

場違いなところに来てしまった・・・と後悔していた。

 

「ドレスコードがあるからドレスは僕が見立ててるけどいい?」

 

と言われたので、何も分からない私は彼に全てお任せした。

 

鮮やかな赤のドレスだった。

 

スリットドレスだったため、着るのが躊躇われたが、仕立てて頂いた以上、着る以外の選択肢はなかった。

 

「足見せすぎじゃない?」

 

と言ったら

 

「その場に行けば恥ずかしくないさ。大丈夫だよ」

 

と言われたので、その言葉を信じた。

 

あ・・・バッグが無いんだった。

 

こんなまっ赤なドレスに合う色のバッグって何色ww?

 

それなりのお店に行って聞いてみなきゃいけないな・・・と思っていたら

 

バッグまで合わせてくれていた。ヒール靴までもだ。

 

まっ赤なドレスを着せられた田舎のお姉ちゃん感が出ていないか不安だった。

 

髪の毛は彼のスタイリストさんが私の髪の毛もついでにセットしてくださった。

 

簡単に一つにまとめたようなまとめ髪だったが、前髪全体を横に流して上部にほんのりとボリュームを持たせるだけで

 

手の込んだ髪型かのように見えてさすがだな・・・と思った。

 

彼に見合う女性としてここにいられてるだろうか。

 

飲めもしないワインを片手にボーっとしていると、彼が階段の上方から降りて来た。

 

「お待たせ」

 

と言って片手を私に差し出す。

 

その上に私も手を重ね、彼のエスコートのままに移動した。

 

貴族らしき色々な女性が、マダムが、こちらを見ている。

 

彼が知人を見つけ、挨拶と軽く談笑をし始めた。

 

その時に、フランス人であろうマダム数人が私の方を見て、何かを言っている。

 

フランス語はほんの少ししか分からない。

 

何を言われているのかは分からないが、心地よくない言葉を投げられているということだけは分かった。

 

「あなたフランス語分からないのよね?そのアクセサリ素敵ね、私のもこんなものだけど」

 

というようなことを言われていたのだと思う。

 

見ればそのマダムの胸元には大きなサファイヤが付いている。

 

私は肩身が狭くなって早く帰りたいと思い始めた。