予算額と特徴
2023年度当初予算案の防衛費は、2022年度の5.4兆円から6.8兆円と、1.4兆円増加(26%増)。
防衛費は過去最大額かつ、9年連続で過去最大を更新することになる。
これまでは年平均550億円ほどの増額で推移してきたが、今回の突出ぶりは際立っている。
さらに翌年度以降の軍事費の財源として確保される「防衛力強化資金」への繰入額3兆3806億円を加えると、10兆円を超える。
同時に、戦後初めて、防衛費の調達を目的にする建設国債の発行を盛り込んだ予算案でもある。
23年度の軍事費で目立つのは米政府からの兵器購入の増額である。
米政府の武器輸出制度である有償軍事援助(FMS)は1兆4768億円と、22年度の4202億円から3・5倍に急増。軍事費増額分の4分の3近くを占める。米国製の巡航ミサイル「トマホーク」を購入するための2113億円も含まれる。
敵の射程外から攻撃できる長距離ミサイルの研究・開発・量産・取得に充てる「スタンド・オフ防衛能力」関連の伸びも著しい。
ーーーーーーーー
トマホーク
1970年代にアメリカで開発が始まり、1980年代から配備が開始された巡航ミサイル。
「巡航ミサイル」とは、内蔵する小型のジェットエンジンによって飛行するミサイルのことで、よく北朝鮮が発射している弾道ミサイルとは異なり、低高度を比較的自由に飛行することが可能という特徴がある。
トマホークは1991(平成3)年の湾岸戦争や2003(平成15)年のイラク戦争、さらに最近では2017(平成29)年および2018年のアメリカ軍(2018年は米英仏による共同軍事作戦)によるシリア空軍基地に対する攻撃など、実戦にも数多く投入されており、最も有名な巡航ミサイルといえる。
速度は時速約900km。
射程は約1600km超と、これまで自衛隊が保有してきたいかなる装備よりも圧倒的に長い射程。たとえば、現在自衛隊が保有している中で最長の射程距離を持つ「12式地対艦誘導弾」でさえ射程は約200km程度と見られている。
現在保有しているのはアメリカとイギリスのみ。
なお、核弾頭を搭載したトマホークは現在存在しない。
トマホークの誘導方式には大きく4種類がある。
・TERCOM(地形等高線照合装置)
メリット :安定して低高度を飛べるため、探知されにくい
デメリット:等高線のデータが事前に必要
・INS(慣性航法システム)
メリット :電波妨害を受けない。悪天候下でも使用可能。
デメリット:長距離だと着弾の誤差が大きくなる。
・DSMAC(デジタル情景照合)
メリット :安定して低高度を飛べるため、探知されにくい
デメリット:衛星による地形データが事前に必要
・GPS(全地球測位システム)
メリット :地形データが不要で手軽に運用可能
デメリット:電波妨害を受けやすい
※地形データは日本だけで取得することは非常に難しいため、アメリカとの情報連携が一段と重要になる。
ーーーーーーーー
極超音速兵器
トマホークの飛翔速度は音速の4分の3程度だが、極超音速兵器は音速の5倍(時速約6120キロ)以上。
大陸間弾道ミサイル(ICBM)のような弾道ミサイルはマッハ20を超えるものもあり、はるかに速いが、基本的に宇宙空間に打ち上げてから落ちてくるだけなので、標的や軌道を絞り込みやすく、迎撃技術の開発も進む。
一方、極超音速ミサイルは、宇宙空間ではなく、高度100キロ以下の比較的低いところを飛ぶため、探知そのものが難しい。
さらに、たとえ探知できたとしても、弾道ミサイルと違って自由に軌道を変えられるため、どこが標的なのかわかりづらい。つまり、「速いうえに変化球」である。
さらに、たとえ探知できたとしても、弾道ミサイルと違って自由に軌道を変えられるため、どこが標的なのかわかりづらい。つまり、「速いうえに変化球」である。
射程は2000~3000キロに達し、軌道も自在に変えることができるため、既存のミサイル防衛網では迎撃不可能とされる。
これらは今後5年間で完成する見通しがないため、米国製の長距離巡航ミサイル・トマホーク(射程1600キロ)の大量購入予定である。
ーーーーーーーー
FMS
日本がアメリカから装備品を購入する場合、多くのケースで使われる調達方法。
「Foreign Military Sales」=「対外有償軍事援助」と訳され、企業ではなくアメリカ政府との取引で装備品を購入する。取引先は、商社やメーカーではなく、「アメリカ海軍省」や「アメリカ空軍省」になる。
米国が価格や納期、契約解除まで一方的に決定できる枠組みで、価格は米国内より割高になるのが常。米国防総省資料によればトマホーク1基あたり2億円だが、報道では日本が取得するトマホークの単価は1基あたり3億~5億円と、米軍単価の2倍にのぼる。
ーーーーーーーー
軍事費増の政治的背景
軍事費のGDP比2%への増額を目指す背景としては、アメリカからの要求が大きい。
アメリカ側はこれまで、日本の軍事費の目安である「GDP1%以内」は「少なすぎる」と批判してきた。
軍事費GDP比2%の発端はNATOである。2006年、アメリカの要求でGDP比2%の指針を設定。14年のロシアによるクリミア侵略を受け、同年9月のNATO首脳会議で、「24年までの2%達成」を目標に掲げた。
17年に発足したトランプ政権は、NATO以外の同盟国にも2%水準を要求。当時のエスパー国防長官は20年10月20日、ワシントン市内の講演で、「我々はNATOを超えて、すべての同盟国が防衛にもっと投資することを期待している。少なくともGDP2%を下限として」と発言。オブライエン大統領補佐官も21日、GDP比2%は「NATO以外でもゴールドスタンダード(黄金律)だ」(アメリカ軍事専門誌ディフェンス・ニュース)と述べ、絶対的な数値だと強調した。
21年に発足したバイデン政権は、中国に対抗していくため、日本の大幅な軍事分担拡大を要求。当時の菅義偉首相は同年4月16日のバイデン大統領との共同声明で、「自らの防衛力を強化する」と誓約。自民党は10月の総選挙で、初めて軍事費の「GDP比2%以上」を公約した。
アメリカ側はこれまで、日本の軍事費の目安である「GDP1%以内」は「少なすぎる」と批判してきた。
軍事費GDP比2%の発端はNATOである。2006年、アメリカの要求でGDP比2%の指針を設定。14年のロシアによるクリミア侵略を受け、同年9月のNATO首脳会議で、「24年までの2%達成」を目標に掲げた。
17年に発足したトランプ政権は、NATO以外の同盟国にも2%水準を要求。当時のエスパー国防長官は20年10月20日、ワシントン市内の講演で、「我々はNATOを超えて、すべての同盟国が防衛にもっと投資することを期待している。少なくともGDP2%を下限として」と発言。オブライエン大統領補佐官も21日、GDP比2%は「NATO以外でもゴールドスタンダード(黄金律)だ」(アメリカ軍事専門誌ディフェンス・ニュース)と述べ、絶対的な数値だと強調した。
21年に発足したバイデン政権は、中国に対抗していくため、日本の大幅な軍事分担拡大を要求。当時の菅義偉首相は同年4月16日のバイデン大統領との共同声明で、「自らの防衛力を強化する」と誓約。自民党は10月の総選挙で、初めて軍事費の「GDP比2%以上」を公約した。
ーーーーーーーー
【3月16日追記】補足:アメリカの軍事費動向
バイデン大統領は3月9日、2024会計年度(23年10月~24年9月)の予算要求を示す予算教書を発表。
歳出のうち国防費は過去最高だった前年度を3.3%上回る八千八百六十四億ドル(約121兆円)を提示。ロシアが侵攻を続けるウクライナへの支援や、対中国を意識したインド太平洋地域での抑止力強化を盛り込み膨らんだ。
歳出総額は、社会保障や医療サービスの充実のため前年度比8%増の六兆八千八百三十億ドル(約936兆円)に達した。
また、バイデン氏は今後10年間で財政赤字を3兆ドル削減する方針を掲げ、富裕層や大企業に負担増を求め、財政規律を重視する姿勢を示した。