【正規雇用と非正規雇用の違いについて】

一言に、使用者の指揮命令下で働く労働者といっても、様々な雇用形態があります。

 

正社員、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員など、様々です。

 

一般に、これらは大きく正社員と非正社員に二分することができますよね。

 

非正規雇用の増大が問題視されますが、そもそも

正規雇用とは何でしょうか?

非正規雇用とは何でしょうか?

意外に厄介で難しい問いです。

 

これは法律用語ではなく俗称なので、正確な定義が定まっているわけではありません。労働者を区分するのに便宜が良いため、慣習として用いられているに過ぎない、実のところ曖昧な概念です。

 

従って、定義要件は様々なものが唱えられるでしょう。一例としては以下の通りです。

①労働契約に期間の定めあり

②直接雇用でない

③フルタイム労働でない

④賃金が時給制である

 

いずれかひとつにでも該当する労働者を非正規、いずれにも当たらない労働者を正規と捉えます。

 

上記に基づいて当てはめをすると、例えば、派遣労働者は、派遣元会社と、実際の就業先である派遣先会社が異なる「間接雇用」ですので、②に該当し、非正規です(いかに区分が困難とはいえ、派遣については非正規であるという認識の方が99.9%だと思われます)。また、コンビニにバイト先が決まったら、(たいていの場合は)労働契約に期間の定めがある「有期労働者」でしょうから、①に該当し、非正規となります。日々紹介も勿論非正規です。また、正規社員の所定労働時間が8間である場合に、それより短い時間(例えば4間)働く者は、③に該当し、一般に非正規と捉えられる事が多いのではないかと思います。

 

ただ、反復になりますが、絶対的な物差しは存在しませんから、上記の4つが批判されるのも自然です。以前に比して家計自立型の非正規雇用が増大しており、擬似パート(フルタイムパートとも)が問題化しているわけですから、特に上記③は批判される余地が大きいかと思います。

 

2014年12月末、労働力調査において、非正規雇用が初めて二千万人を突破したと発表されました。個人的に衝撃的なニュースでしたが、さて、統計調査において定義は非常に重要です。ではどうなっているかというと、雇用者の雇用形態は、「勤め先での呼称」により分類されているのです。

 

すなわち、「正規の職員・従業員」とは、勤め先で一般職員や正社員などと呼ばれている人、「非正規の職員・従業員」とは、勤め先でパート・アルバイトなどと呼ばれている人、及び「労働者派遣事業所の派遣社員」・「契約社員」・「嘱託」など、を示します。

 

また、5年に一度実施される就業構造基本調査でも、有業者の雇用形態区分について、一般職員又は正社員などと呼ばれている者を「正規の職員・従業員」とし、それ以外の雇用者をまとめて「非正規の職員・従業員」として表章しています。呼称による調査なんですね。

 

適当なようですが、現実的に厳密な区分に基づいた調査は不可能であることの妥協であり、証左であると言えます。日本社会の企業数の分だけ実態は様々ですので、「正社員とは何かは会社によって異なる」という説明は決して誤りではありません。

 

*パート・アルバイトも法律用語ではなく、その区別は更に困難で、そもそも学術的にも峻別することに意義は殆どないかと思います。ただし一般的には、主婦がするのがパート、学生がするのがアルバイトというイメージが持たれているようです。*パートタイム法という個別法がありますがこれも俗称で、法律の正式名は、「短時間労働者の雇用改善等に関する法律」です。

 

*「契約社員」「嘱託社員」も法律上の概念ではなく、非常に多義的です。というか、民間の事業所で雇用されて賃金を受け取っている人は、須らく使用者と契約を締結しているので、「契約社員」という言い方は非常に語弊がありますよね(ー ー;)

 

しばしば、非正規雇用のデメリットとして、キャリアアップが図れないため正規への移動が困難、ボーナスが出ない、退職金無し、給与が低い、雇用状態が不安定、社会保険未加入などという点が挙げられます。これらを、非正規である結果として労働者に生じるデメリットではなく、総合的な非正規雇用の定義・基準として捉えるべきではないか、というのが私の意見です。もっとも、どの要素を重視するか等はやはり大きな理論的課題として残りますが。

 

特に最近では、限定正社員という言葉が登場してきたため、概念区分が一層カオスな状態となっています。

 

限定正社員とは、勤務地や仕事内容、労働時間が限定された形で働く正社員のことで、アベノミクスの成長戦略の一つにもなっています。

 

しかし、例えば勤務地がA店舗に限定された労働者の場合、A店舗の閉鎖が決定した場合、解雇される可能性が高くなります。雇用状態が不安定である点は、契約更新が保障されない有期労働者と近い事情があります。

 

当該企業の給与体系、福利厚生、職務上の地位等の諸要素を考慮した上で、実質的に正規とイコール、または非正規とイコール、或いは両者の間に位置する中間的雇用形態、と判断されることになると考えられます。

 

複雑多様化する現代社会では、このように結局のところ、実態に即して総合的に判断される、という曖昧模糊とした指針しか指し示せないと言って過言ではありません。

とはいえ、それぞれの大雑把なイメージを持っておくことは有意義だと思います。

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【脱線的補足】

一般に、企業が非正規雇用を増大させる理由は、コストカットだとよく言われます。

これは当然正しいのですが、労働運動の観点としては、「労働者の分断」が発生するという視点を持つことも非常に重要です。すなわち、非正規雇用というのは、同一の勤務先に、正規雇用ほど長期間勤めることはなく、人材の流動性が高いですから、労働者としては仲間意識が持ちづらいという面があります。私も働いたことがありますが、日雇いはその究極系と言ってよく、極めて匿名性の高い職場となります。このように、労働者同士の横の連帯、団結を困難にさせることで、使用者側としては、かつての様な争議行為を事前かつ容易に抑え込むことができるようになります。
 
戦後日本の労働組合は、圧倒的に正社員中心主義であり、非正規の利益に無頓着でした。今でも最大のナショナルセンターである連合は消極的だと考えられます。しかし非正規雇用は増加の一途を辿る。ですから非正規の労働運動というのは、今後決定的に重要であるし、もちろんその様な問題意識の上に現在進行形で活動していらっしゃる方も大勢います。