【自己満足まとめ:人づくりでなく人破壊の外国人技能実習】2015.12.6

外国人技能実習制度は、日本が先進国としての役割を果たしつつ、国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能・技術・知識の開発途上国への移転を図り、途上国の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的として創設された制度だ。

 

現在では本制度のもと、約3万の事業所でおよそ16万人が働いており、国籍は中国、ベトナム、フィリピン、インドネシアの上位4か国で全体の9割を超えている。

 

外国人研修・技能実習制度はかねてより、制度の建前と現場実態との著しい乖離および人権侵害が国内外から批判され続けてきたことで有名である。「国際貢献」「技術協力」という名分のもとに何が起きているのか、まず、実態を見ておこう。

■05年末、岐阜市内のA縫製所で働く中国人女性技能実習生6人が、国籍を問わず個人加入できる全統一労働組合に加入した。彼女たちからは、研修・技能実習の現場で起きている法令違反や人権侵害行為の話を聞くことができた。
彼女たちによると、午前6時半から午後9時まで、ひたすらミシン縫いとアイロンがけをする。年間休日は15日で、1か月間休みなしで働くこともある。残業はしばしば深夜にまで及び、月250時間に上るが、残業手当(時給)は1年目200円、2年目250円、3年目300円。彼女たちはみな20~30代だが、長時間の重労働によって「体はボロボロ。おばあちゃんになったような気持ち」と訴えた。
契約上の基本賃金こそ月12万5000円と記載されているが、宿舎代などが引かれ、さらに4万円が強制的に貯金される。実際に手元に残る生活費は1万5000円程度だった。宿舎には空調設備もなく、冬にはジャケットを着込み、お湯を入れたペットボトルを抱いて寝たという。

■中国からの技能実習生Bさん(女性)は、農業研修・技能実習の約束で来日したものの、実際には製材所に配置された。協同組合の理事長が経営する製材所で、おが屑や廃材の焼却などの仕事の他にも、理事長宅の掃除や靴磨きなどの家事もやらされた。
Bさんによると、ある日、理事長から「仕事をするからついて来い」と言われ、別棟で性的関係を強要された。恐怖に泣くBさんに理事長は、「このことを他人に言ったら中国に帰す」と脅した。以来、理事長は合い鍵を使ってBさんの部屋にやってくるようになった。その回数は1年3カ月の間に60回以上を数えた。
Bさんは意を決して宿舎から逃げ出したが、3カ月が経過した今でも夜、急に目が覚めて不安になるという。ドアの開け閉めの音にも恐怖を感じ、他者と普通に会話している最中に突然暴力を振るいたくなるといった症状も出ている。医師はPTSDと診断した。
(以上2例ともエコノミスト2006.11.07より引用)

もちろん、これは氷山の一角としての事例である。
最低賃金を大幅に下回る基本給、四畳半に4人を住まわせて月3万の家賃、パワハラ・セクハラの横行、逃亡防止のための旅券・在留カードの取り上げ、同じく逃亡防止のための天引きによる強制貯金、有形的・詐欺的手段による強制帰国・・・などの違法、人権侵害が数多く発生しているのが現実だ。送り出し機関との間で、保証金を徴収され、日本における正当な権理行使を禁止する契約と、その違反に対する違約金契約を締結させられる問題も起きている。まさに凄まじい人権侵害ではないか。

 

制度目的は技能・技術等の移転を通じた国際貢献であるが、中小企業団体の強い要請が背景にあったという経緯が示す通り、多くの就労現場、とりわけ農業、漁業、縫製など日本人労働者が好まない傾向にある現場において、労働力不足解消と安価な労働力確保のために使われている実態がある。むしろ、日本産業のために外国人を利用している、と言った方が適切だろう。

問題を理解しやすくするためにも、ここで研修・技能実習の制度的経過を見てみることにしたい。
制度の法的淵源は、1989年に遡る。出入国管理及び難民認定法改正により、在留資格として「研修」が創設され、外国人研修制度が誕生した。その後1993年に外国人技能実習制度が設けられる。97年には、1年目に研修生として座学・実務の研修を行い、2~3年目に技能実習生として技能実習を行うという制度、すなわち両者が連続性を持つシステムとなり、これが2010年まで続いた。

 

研修生と実習生とでは、労働関係諸法が適用されるか否かという大きな差異がある。前者は「技術を学ぶ者」として非労働者にあたるため、労働関係法規の適用はない。研修生に労働の対価を支払うことは許されず、研修手当の名目で生活実費を支給することしか認められていなかったのである。しかしながら、実務研修は労働との区別がそもそも不明確であり、労働関係諸法が適用されないことに疑義が呈されていた。受け入れ機関が研修生を就労させながら制度を逆手にとり最低賃金以下の金員しか支払わないケースが問題となっていたし、残業をしても残業にならないということが公然と行われてきた。ここから研修生の労働者性という法的論点も生じるのだがここでは触れない。ただ、労働法が不適用ということに驚いたのは私だけだろうか。

 

以上の経緯を受けて、2009年に入管法が改正され、旧制度は、実習実施機関との雇用契約を前提とし、労働関係法規が適用される技能実習制度に一本化され、これが2010年7月に施行された。

基本的に1年目から労働法が適用されるようになったことは前進としても、現実的に違法状態が改善されたとは言えない。厚生労働省の標記発表によれば、2011年度、労働基準監督署による実習実施機関に対する監督指導件数は2748件であり、このうち82%に当たる2252件で労働基準関係法令違反が認められた。いずれも改正法施行前の水準を上回っている。日本人労働者の状況を考えても容易に予想の範囲内とはいえ、残念だ。法改正の前後で実態はさほど変わっていないどころか、悪化しているとさえ言える。

 

制度的欠陥はなお存在する。とりわけ重大な構造的問題点として一貫していることとして、在留資格は、実習する予定の受入先を特定した上で与えられるために、実習生に雇用主変更の自由、職場移転の自由がないことだ。すなわち特定一箇所の職場に縛り付けられるのであって、これ故使用者との間に強い支配従属的関係が生じるのである。それは隷属的関係といってもよいかもしれない。実習生は来日費用を借金で工面することが多く、使用者に嫌われて途中帰国になれば負債が残ることになるジレンマがある。言語障壁も手伝って、その立場は日本の一般的な労働者より更に弱いものとならざるを得ない。圧倒的交渉力格差があるなかでは上述した様な違法行為、人権侵害が発生する可能性は一般に高まるであろう。

 

そうした中で最悪の場合、命を落とすことまである。92年から11年までの間、285名の研修生・技能実習生が死亡し、うち30%の85名の死因は、脳・心臓疾患であるという発表が、制度の運営等を行う機関たるJITCO(財団法人国際研修協力機構)からなされている。脳・心臓疾患とは過労死の典型疾患であり、長時間労働等の過重な労働実態が推認される。
苦渋の決断としての結果だろうが、耐えきれずに逃亡する者も多くいる。産経ニュースによれば、受け入れ先から姿を消した失踪者が非常に多い。平成25年(2013)には3567人、平成26年(2014)には4851人(過去最多)であり、平成26年までの10年間では累積2万5000人もの実習生が失踪しているのだ。NHK「クローズアップ現代」では、近年、実習生が受け入れ先から逃亡し、難民申請する例が数多いということも取り上げられており、事態は深刻であると受け止めざるを得ない。

今年2015年、通常国会にて改正案が提出された(正式名は、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案で、現在衆議院で閉会中審査となっている)。

実習期間を現行の3年から5年に延長し、新たに介護を職種として追加拡大するほか、実習計画を認可制とし、監理団体などに対する管理監督と実習生保護のため、新法人「外国人技能実習機構」を創設することなどを定めた内容である。法案の詳らかな分析検討までは労力的に難しいので省略させて頂くが、相変わらず建前と実態との乖離や、雇用主変更の自由など構造的問題は残る。予定人員の少なさが指摘されている新法人による監督実効性にも、事態が好転する期待は持てない。

このまま実態を無視した制度と議論を続けていては、日本に対する国際的な好感度の低下にも繋がりかねない。実際に、技能実習に来て日本の印象が悪化したというアンケート結果が出ている(毎日新聞2015.7.31中部夕刊)。来日前は、ベトナム人実習生38人中37人が「とても良かった」「まあまあよかった」と回答しているが、来日後の印象では22人に減少。来日前は一人も選ばなかった「あまり良くない」は14人だった。なお、回答を依頼された実習生の多くが、「アンケートへの協力が知られれば報復されかねない」と断ってきたという。国際貢献、途上国支援のはずが、外国人労働者を痛めつけ、日本の印象を傷つけ、相手国との関係毀損にまで至るとはどういう皮肉だろう。

 

「実習生なしでは経営が成り立たない」。日本の生産現場では、そんな声が多く聞かれるが、人権の視点抜きの外国人労働者の受け入れは、もはや許されるものとは言えないのではないか。非熟練労働者の受け入れをするにしても、新たな在留資格を設けるなど、正面からその是非と範囲などを検討していくことが求められていると考える。本制度は早期に廃止することとし、リセットした状態で、この欠陥を克服した新制度の是非とあり方を検討する必要があるものと思う。

労働法律旬報No.1842 小野寺信勝『外国人技能制度の制度設計と現在の状況』
同             髙井信也『「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」の問題点』
同             蜂谷隆『サイドドアを作り直しても根本問題は解決しない』
日本弁護士連合会『外国人技能実習制度の早急な廃止を求める意見書』
毎日新聞記事複数
産経ニュース
厚労省HP