残業が22時を超えた帰り道。
隣の係の職員さんと一緒になった。

私たちは近くにいたのに
話をしたことがほとんどなかった。

それなのに、電車に乗った時は
日付を超えていた。

あれ?私たち、前から知り合いだった?それくらい話しやすかったのだ。

別の日に改めて話して驚いた。

彼女は前の部署で、
私がお世話になった奨学金の担当をしてくれていた。

思わず、両手を机について
お礼を伝えた。

あの奨学金があったことで
私がどんなに救われたかを…。

すると彼女が教えてくれた。
彼女も、18歳で故郷を離れ
今日の生活にこぎつけるのに
人一倍遠回りしたことを。


来月もこの街で暮らすために
拳と小銭を握りしめた20代。
東京にあったのは、夢とかそんな輝かしいものじゃないってこと。
裏切られる日もあった。
涙さえ出ない日だってザラだ。

体の不調、
思うように行かない心。
容赦ない逆境にうなだれる日々が
教えてくれたのは

もう故郷には帰れない。
その事実が
一番自分を強くすること。

そして、誰かの優しさはお金に換えられない尊いものだってこと。

頑張ったよね、私達。

そう言えるまでには
まだまだ時間が必要だから、
話は止まりそうにない。

人との信頼関係を築くのは
時間じゃなく密度だ。


人との出逢いに感謝した、如月。