小説 【金鵬王朝】 | 初心者同志

小説 【金鵬王朝】

★小説を一冊だけ読もうシリーズ №2★


【金鵬王朝】  古龍

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ある日、江湖でも広く名前の知られた男、陸小鳳の前に

絶世の美貌を持った1人の女性が現れ、自らのことを

「滅亡した金鵬王国の公主である」と、名乗る。

そして、王国の再興のため、略奪された財宝と、亡命した皇子の捜索を依頼する。


陸小鳳は、友人である盲目の美形侠客、花満楼や、

天下に並ぶものなき非情剣士、西門吹雪らの力を借りて

それらの行方を追い始めるが、

やがて、思いもよらなかった真実を知ることになるのだった。


初心者同志-Book 002

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中国の『武侠小説』と呼ばれるジャンルは、分かりやすく説明するならば、

アジア版のファンタジー小説、といったところ。


主人公は大抵の場合、正義のヒーローであり、

戦うべき悪い存在がいて、対決し、最後に勝利する。

基本的に、モンスターのような、空想上の生物までは登場しないが、

その代わりに、モンスターとほとんど変わらないような、

個性溢れる人間たちが、これでもか!と登場することが特徴で、

空を飛ぶように、建物から建物へとどんどん飛び移ってみたり、

気の力で、触れずに相手を炊き飛ばしたりもする。


そこに時代劇の要素が加わって、日本のチャンバラ風アクションシーン

が描かれ、愛や、友情や、卑劣な悪行や、胸のすくようなヒロイズムや、

感動のドラマといったよくある展開が描かれたものが、

中国の「武侠小説」と呼ばれるものになる。


ちなみにこの〝武侠小説〟と呼ばれるジャンル、

日本では、特別に認知度が低いことで有名。

アジア全域では、一般的な世俗小説として、日常の中で

当然のように読まれていることもあって、中国の人からすると、

なぜ、日本人だけが武侠小説に興味を持たないのか、

すごく不思議らしい。


でも、知名度が低いだけで、需要はきっとあると思う。

武侠世界を舞台に、ジェット・リーが主演した映画、

「HERO」の大ヒットもあったし!

日本人は「三国志」や、「水滸伝」「西遊記」が大好きだし!


ということで、第2回は武侠小説を紹介。


中国の武侠小説の世界では、『武侠御三家』と称される、

金庸、梁羽生、古龍という有名な3人の作家がいる。


中でも、日本で武侠小説の代表的作家と言えば、

間違いなく金庸なのだけど、今回はあえて別の人物、

古龍の作品を紹介。


理由は、圧倒的に読みやすいからだ。


例えば、武術の腕前は達人クラスという主人公の陸小鳳は、

武侠世界という、ちょっと特殊な世界を舞台としていながら、

分かりやすくて、とても共感しやすい人物設定がされている。

酒、女、博打が好きな上、人に頼みごとをされると、

断ることができないというお人好し。

そのために多くの敵を作ることもあれば、多くの友人と知人も

持っているという、典型的なヒーロー像だ。


さらにその友人で、なによりも花を愛し、誰よりも卓越した武芸の

腕を持ちながら、

どんな人間の言うことも、疑うことなく無条件に信じてしまう、

純真な盲目の美形武術家、花満楼。


そして、その花満楼をもって、


「腹の底から、生きているといえるのは、殺しをしている瞬間だけ、

あとは単なる待機の時間でしかないんだ」


と云わしめる、

常に全身を白装束で纏い、殺されて当然の人間の前にだけ現れ、

それを一刀の元に切り捨てて去っていく、稀代の剣豪

西門吹雪。


他にも、個性的なキャラクターは数々登場するものの、

この3人のキャラクターはとくに魅力的で、この3人がそれぞれに

関わりあうシーンは、すべて見所といってもいいくらい。


例えば、西門吹雪が作品の中で初登場となる場面の描写なんて

びっくりするくらい、カッコいい。


西門吹雪に降りかかるのは雪ではない。

剣に散る血の花だ。


なんの前触れもなく、いきなりこんなふうに始まり、

さらに人を1人、一刀の元に切り捨てると、


引き抜いたとき、剣にはまだ血がついていた。

吹雪がフッと息をかけると、鮮血はつーっと剣刃をすべり、

剣尖からぽたりと一葉の落ち葉に落ちた。

落ち葉が西風にあおられて舞い上がったとき、西門吹雪の姿は

霞に飲まれ、西風の中に消えてしまった・・・・・・。



他にも、子供のように純粋な青年花満楼と、世の中のあらゆる面を

見てきた大人の陸小鳳との、ユーモアあるやり取りも楽しい。


花満楼は見えないにもかかわらず、イスの位置を感知することが

できるかのように、過(あやま)たずそこに腰を下ろした。

これを見た陸小鳳はつい尋ねた。

「いままで尻餅ついたことはないのか?」

花満楼は微笑んだ。

「尻餅つくところが見たいのかい?」

「おれはただ、そういうときには地べたじゃなくて、女性の

膝の上に尻をおろしたほうがいいだろうな、と思っただけさ」



海外では作品中に出てきた言葉をまとめた、『古龍妙語』という

の警句集まで出ている、というくらい、軽妙洒脱な古龍の文章と、

登場人物たちの会話。


それだけを楽みに読んでも、充分に面白い。


ちなみに別作品ながら、古龍作品で、1番心に刺さったのはこの言葉。


生まれつき勇敢なやつも、生まれつき機敏なやつも、

生まれつき幸運なやつには敵わない。



ああ・・・・・・うん。