小説 【笑いながら死んだ男】 | 初心者同志

小説 【笑いながら死んだ男】

★小説を一冊だけ読もうシリーズ №1★


【笑いながら死んだ男】 ディヴッド・ハンドラー

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デビュー作で〝本格派作家〟〝文壇の寵児〟と、持て囃され、

一躍人気作家となりながら、2作目が書けずに行き詰まり、

世間からの評判も、注目も、愛するハリウッド女優メリリーとの

結婚生活も失った元人気作家、スチュアート・ホーグが

数々の有名スターたちと出会い、その過去に隠された真実と、

それによって起きる事件の謎に迫ってく、

ホーギーシリーズの第1弾。


過去の栄光はどこへやら、オンボロのアパートに住み、

愛犬のルルと、明日の生活費にも困る生活を送っていたホーギーの前に、

突然、往年の超売れっ子コメディアン、ソニー・デイが現れ、

ホーギーに出版を計画している、自身の自伝のゴーストライターを依頼する。


これでも1度は、輝かしいばかりの栄光を、自らが執筆した作品で

勝ち取っているホーギーは、「どうして、僕なんかが」

1度はその話を断りかけるのだが、この自伝のためにソニー・デイは

とっておきの秘密、


『30年前に自分たちのコンビを解散するきっかけとなった、

大勢のスターたちが見ている中で、血だらけになるほどの

相棒との壮絶な殴り合いの喧嘩をした理由』


を話す用意があることを、明かすのだった。


やがて、アメリカのショービジネス界でも最も謎めいた出来事、とも

されてきた、その事件の秘密が、ソニーの口から明かされようとしたとき、

大きな事件が、ホーギーがいる場所から、遠く離れたところで起きる。


初心者同志-Book 001
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1人の主人公が、毎回違う事件を扱っていく海外ミステリーのシリーズ作品は

どうしても途中から、お決まりの設定だったり、

新鮮味を失っていく登場人物たちのせいだったりで

どんどん退屈になっていくシリーズが多い中、

このホーギーシリーズは作品を重ねていくごとに、中身が充実し、

どんどん傑作になっていくという、非常に珍しいシリーズ。


かといって、初期作品が決して、面白くないわけでもなく、

アメリカン・ミステリー賞を受賞した第3作目、

【フイッツジェラルドをめざした男】を始めとして、読む人によっては、

初期作品こそ、ホーギーシリーズらしい、という人もいるかも知れないくらい、

傑作が多い。


作者ディヴィッド・ハンドラーが、これまでに執筆した

ホーギーシリーズは全8作品。


それまでにホーギーが出会った有名人たちは、

元人気コメディアンから、元売れっ子ロックスター、大ヒット作連発の

大人気映画監督と、まさに多種多様。


そして、その誰もが一様に悩みを抱え、一様に苦しんでいる。


かつては、自身もそんな売れっ子スターの一員だったホーギーが

そんな彼らに投げかける、ちょっと皮肉の効いた、

しかし温かな言葉の数々こそが、この作品のきっと1番の魅力。


例えば、本作に登場するコメディアンのソニー・デイは、売れなくなって以後

アルコールと薬物の中毒になり、病院に通いつづけてなんとか立ち直った

という状況にある。

そんな彼と、一緒に自伝作りを始める冒頭から、こうだ。


ホーグ 「子供時代のことを話せますか?」

デイ   「いいとも。おい、こいつはまるでセラピーじゃないか?」

ホーグ 「2人とも、お金のためにやってますけどね」

デイ   「おい、こいつはセラピーよりいいんじゃないか?」


反対にデイが、ホーギーが両親と関係を築くのをやめてしまっている

ことを知ったときは、


デイ   「あんたは何を信じるんだ、ホーギー?」

ホーグ 「もう、これといって何も信じちゃいませんね」

デイ   「オレが何を信じてるかわかるか?人間さ。(中略)

      オレは人間てものを愛してる。俺はあんただって愛してるさ」

ホーグ 「まさか、抱きしめてくるんじゃないでしょうね」


もう一つ、ホーギーとともに全作品に出演している、

もう1人の主人公と言っても言いすぎではない、愛犬のルルと、

元妻のメリリーの存在も、楽しくて仕方ない。


ミステリーというジャンルである限り、時には陰惨で、悲しい展開が

出来事が起きることもあるあるけれど、そんなときはホーギーと、

この2人(1人と一匹)のやりとりにいつも癒される。


ソニー・デイが、ボディーガードと共に、ほとんど強引に

初めてホーギーの家に訪ねてくる場面では、


僕はふたりを通した。ふたりが入ると、小さなリビングはいっぱいになった。

ルルはひとしきり吠えたてると、机の下に走り込んだ。

「えらいぞ、ルル」と、僕は声をかけた。


メリリーと久しぶりに電話で話すシーンでは、すでに自分の元夫が

今、デイの自伝を手伝っていることを知っていた、と聞き、


「僕としたことが、薄っぺらだと思うかい?」

「たとえあなたがその気でも、あなたは薄っぺらなことができる人じゃないわ」

「そいつはメリリー、君が僕に言ってくれた二番目に素敵な台詞だよ」

「1番目はなあに?」

「『本当にもう他に試してみたい体位はないの?』」

「ミスター・ホーギー、はしゃぎすぎですわよ」



個人的には、海外ミステリーには珍しく、格好いいデザインの

表紙にも注目。

華々しい飛躍を遂げていく、傑作海外ミステリーシリーズの第1弾だ。