アンドロメダ病原体。
【 アンドロメダ病原体 】
著 マイクル・クライトン 1969年発刊
人類滅亡のカウントダウンを静かに、淡々と描いていく、冷たいSFの物語。
海外ドラマ【LOST】では、作品中に何度となく、謎の数字が登場する。
4,8,15,16,23,42
それは、ときには無線機から、延々と聞こえ続ける声が口にしている数字だったり、
使用用途の不明な古いパソコンに打ち込む数字だったり、
地図の中に、暗号のように書き込まれている数字だったりする。
その数字はドラマの中で終始、謎の存在として描かれつづけ、
飛行機が墜落し、生き残った生存者たちの前に幾度なく現れて、
彼らを、様々な形で惑わせていく。
これを見たとき、私が真っ先に思い出したのは、
マイクル・クライトンが書いた小説、【アンドロメダ病原体】だった。
この作品は、アメリカのある地方に落ちた一つの無人衛星から
地球外の病原体が発見され、それを研究機関のチームが調査し、
解明していく過程を、刻々と描いていく、サスペンスの魅力が溢れるSF小説だ。
まだ、なにが起きているのかも判明していない物語の序盤、
人がみんな倒れて動かなくなっている街の中を、
調査に訪れた科学者たちがゆっくりと車で移動しながら、驚愕の声を上げていく、
というシーンには、その淡々とした描写との効果も相まって、
思わず息を呑まずにいられない。
その後、本格的な調査、研究が物語の中で進められていくのだけど、
面白いのは、その経過の中で、事あるごとに、調査の記録や、
検査を申請するための書類、実験の分析結果といったものが、
本当に実在している書類から抜粋してきて、掲載しているみたいに、
物語の合間、合間に描かれることだ。
それらのほとんどは、あまりにも専門的で、素人の私たちには、
何が、どんな意味をもっているのか、ほとんどわからない。
奇妙な数字の羅列だったり、見たことのない表記の記号が続いていたりする。
ただ、その無機質で、意味なんて、あまりなさそうに思えるその数字が、
正体不明な病原体を調査する、という、この物語に、
妙な真実味と、予想のつかない不気味さを持たせているのだ。
海外ドラマ【LOST】を見ていて私が感じた、奇妙な不気味さもそれだった。
本書の作中、科学的な実験が行われていくシーンの描写はとても現実的で、
もし、こんな事件が本当に起きる様なことがあれば、
実際に行われるだろう、という調査の過程が、精密に描かれているのだという。
それでも、本当の専門家たちから見たら、
お、けっこう頑張ってるなあ、という程度で終わるものなのかも知れない。
でも、なんの知識もない私たちから見ると、非常に真に迫っているようで、
思わず、真実が書かれているのでは!?と思ってしまったりする。
事実、この小説の始まりは、1番最初のページに、
アンドロメダ報告書、とあって、その下に、
【このファイルは極秘文書である】
と書かれている。
著者自身のまえがきでも、
本書は、アメリカ最大の科学的危機の記録をまとめたものである、と書かれて、
まるで実際にあった事件の記録を公開する、みたいな記述がされている。
もちろん、実際にはすべては著者の創作なのだけど、
読む側としては、ぜひ、著者の仕掛けに自ら飛び込むことで、
思う存分、この作品を楽しむことこそが、この作品を最も満喫する
最高の方法ではないかと思うのだ。
