ネコの失踪。 | 初心者同志

ネコの失踪。

小雨降る、夕暮れのとき。

小さな箱に入れられて捨てられていた子猫を

家で飼うことにした私は、そのネコにクロと名づけた。


クロは野性的なネコだった。


外に飛び出していっては、蛙や虫などを捕まえてきて、

私のところに持ってくる。

という行為は、実は獲物をとれない飼い主を

心配しての行動なのだと、以前書いたけど、

きっと、クロから見たら私たちは、

随分、頼りない飼い主に見えたのだろうと思う。


あるとき、外に出て行ったまま、しばらく帰ってこないことがあった。

外に出て行っても、必ず戻ってきていたクロだから、

さすがに、二日、三日と過ぎていくと、私たちも心配になって

近くを探しにいった。


ある場所までいくと、どこからか、

ネコの声が聞こえてくる。

クロの声に似ているな、と私は思った。


それで、声のするほうへ行ってみると、

そこには、人が住まなくなって随分経つ、古い空き家があった。

声はその中から聞こえてくるみたいだ。


ただ、その声はとても弱々しくて、かすれてしまっている。


もし、この声がクロのものなら、

もうずっと何も食べていないだろうから、衰弱しているのかも知れない。


私たちが外から「クロ!」と呼ぶと、

中から、これまでより、一層、高い声でそのネコが鳴きだした。

クロに間違いない、と私たちは思った。


もしかしたら、クロはどこかの隙間からこの中に入ったものの、

出られなくなっているのかもしれない。


そこで、その空き家の現在の持ち主を突き止めて、

家の鍵を開けてもらうと、私たちは玄関でクロの名前を読んだ。


クロは私たちの声を聞いて、飛び出してきた。


飼い主に出会えて喜ぶ犬というのは見たことがあるけれど、

あれだけ飼い主に喜びを表すネコというのを、

私は見たことがない。


家に5日ぶりに帰ってきたクロは、

まるで器まで飲み込むような勢いでエサを食べ尽くすと、

すぐに自分の寝床へと歩いていき、すやすやと寝息をたてはじめた。


その顔からは、さっきの再会のことなど、

すっかり消え去ってしまっているかのようだった。