ネコのクロ。
私は昔、ネコを一匹飼っていた。
その出会いは、今思うとまるでドラマのワンシーンのようで、
小雨が降る夕暮れ時、
小さなダンボールに入れられて、心細そうに鳴いていたのを、
小学校からの帰り道だった私が見つけたのだ。
まだ、生まれたばかりのようだった。
黒と白の斑模様の子猫だった。
名前はクロ、とつけた。
他にもいくつか考えたのだけど、一つに絞ることができなくて、
だったら、ネコ自身に決めてもらおう、ということになったんだ。
何が起きているのかわからず、無邪気に
近くのものとじゃれあう子猫に、
私たち家族は、考え付いた名前を、順番に呼びかけていった。
すると、次々と名前を呼んでいく中で、
クロ、と呼んだときに、子猫は初めて反応して、
私たちのところに歩いてきたんだ。
でも、さすがに名前がクロでは、捻りがなさ過ぎるだろうと、
他の名前でも一通り呼んでみたんだけど、
なぜか反応しないんだよ!
うーん、お前は確かにクロだけど、シロでもあるじゃないか!
で、シロ!と呼んでみるのだけど、その名前には
興味がないらしくて、まったく反応を示さない。
うーむ。
他にも、ありとあらゆる、思いつくすべての名前を
呼んでみたのだけど、
やっぱり反応はまったくなくて、
それで、最後にもう一度、「クロ」と呼んでみたんだ。
すると、ネコはトコトコと私たちの膝元までやってきて、
顔を見上げると、ニゃーと鳴いた。
いったい、この平凡な名前のどこに惹かれたんだろう、
と思ったのだけど、ここまで見事に反応されてしまうと、
私たちも、無理に他の名前をつけることができなかった。
それで、その拾ってきた子猫の名前はクロになった。
クロはその後、子供を生んで母になり、
私の家で最後まで過ごした。
明日から少しだけ、そんな、平凡な名前の、
決して平凡とはいえない人生を送った、
我が家のクロの物語。