騒ぎは騒がれることなく。
学校の帰り道。
空に浮かぶ不思議なもの を、三人の友達と、一緒に見た私。
でも、その翌日私たちは、そのとき見たもののことを、
クラスのみんなには話さなかった。
そのあとも、冗談まじりで言ったことは
あったかも知れないけれど、真剣に話すことはなかった。
内緒にしておこう、と約束したわけじゃない。
ただ、なぜか、誰も話そうとしなかったのだ。
今になって思うと、あのときにみんなにも話しておけば、
もう少し私たちの印象にも、記憶にも、
残ったかも知れないなあ、と思う。
自分たちが見たものを、
自分たちで封印してしまったせいで、
そのときの記憶はその後、かなり曖昧となってしまった気がするんだ。
でも、クラスのみんなには打ち明けられない理由も、
確かにあったのだ。
実は、それよりもほんの数日前に、
私たちのクラスでは、UFO騒ぎがあったばかりだった。
あるとき、一人が朝、教室で、
「俺、昨日UFO飛んでるのを見たよっ」
と言いだして、すごい大騒ぎとなったんだ。
当然、みんなはそのクラスメイトを囲んで、熱心に
いろいろと訪ねた。
どこで?
何時ごろ?
どんな形してた?
外で遊んでたらさ、偶然。
夕方ごろかな。
すごいピカピカ点滅してたよ。絶対、飛行機じゃなかった。
私たちは、それを聞いて、
そのころは家にいたなぁ、とか、
ああ、そのとき、空を見てなかったなぁ、
なんて言いながら盛り上がっていると、
ふいに、その輪に入っていなかった、クラスの一人が言った。
「それ、人工衛星じゃない?」
当時、私は人工衛星というものがなんなのか、知らなかった。
で、周りがポカンと、しているのを見て、
ああ、みんなも知らないんだな、と私は思った。
そのクラスメイトが言うには、人工衛星というのは、
地球の周りを回っている、人間が打ち上げた衛星のことで、
(衛星てなんだろう?当時の私はそう思ったけど、聞けなかった)
それは、地上からも、ときどき見えるらしい。
そういわれても、まだ、UFO説を信じたかった私たちは、
人工衛星だったらすぐ分かるよ、
UFOとは違うよ、
なんて言っていたのだけど、
さらに最後に、付け加えられるように言われた、
そのクラスラスメイトの一言は大きかった。
「だって俺、その時間に空に人口衛星が光ってたの、見たよ」
瞬間、教室内を支配した、恐ろしいほどの沈黙。
とくに、人工衛星がどんなもので、どんなふうに光って、
どんな形をして見えるのか知らない私たちは、
そう言われてしまうと、反論のしようもなく、
うーん、有無を言わせない、とは、まさに、こういう事をいうんだろうなっ。
結局、このUFO騒ぎは、その一言で完全に終息。
最初に、UFOを見た、と言いだした友達なんて、
あまりに落ち込んじゃってて、見ていられなかったなあ。
ああ、可哀想っ。
というわけで、まさについ先日に、
そんなことが、あっばかりだった為に、
あの不思議なものを、空で見かけた私たちも、
クラスのみんなに、自分たちが見たものについて話す勇気は、
ついに、出なかったのだった。
もちろん、私たちが見たものは人口衛星などじゃない、
というのは分かっていた。
でも、だったら、何なのか、と言われると、
具体的な名前は、なにも浮かんでこない。
そんなわけで、結局、私たちはあのときに見たものを、
みんなに話すきっかけを、遂に失ってしまい、
それは時間がたてばたつほど、言い辛くなって、
結局、自分たちの中に、封印してしまうことになったのだった。
というのが、当時、小学生だった私の話。
ところで。
そのとき、空に浮かぶ変なものを、
一緒に見かけた友人とは、実は、今でも親しくしていて、
ことあるごとに、よく会って話すくらいの仲なのだけど、
実は、いまだに、たったの一度であっても、
そのときのことを、私たちの間で、話題にしたことがない。
話している中で、小学生のころの思い出話になることがあっても、
決して、あのときのことだけは、
触れたことがないのだ。
他のみんなが、どんな思いで話さないでいるのかは、
私には、わからない。
ただ、私の場合は、こうだ。
たとえば、あるとき、ふと、話題にしたとする。
「そういえばさ、ほら、あのときに見た、空に浮かんでたもののことだけど・・・・・・」
で、友人が、
「え?そんなことあったっけ?」
「いつのこと?」
「しらないな」
なんて言って、みんなの記憶にもし、残っていなかったら、どうしよう!
覚えているのが、私ひとりだけだったら!
考えるだけで、私は怖くて、
いまだに、あのときのことを、口にできずにいるのだった・・・・・・。