モスマンハンター(その10)
飛ぶわけでもなく、
ただ、その場で、何度も羽をばたつかせ、
怒りとも悲しみとも、つかない感情で吼え叫び、
もはやその焦点を失った目には、
なにも見えていないようだった。
飛竜は、頭と尻尾をめちゃくちゃに振り回し、
手当たり次第に大樹の幹にぶつかっては、それをなぎ倒し、
体からの出血をさらに増やしていた。
私は剣を抱え持って、そんな中に飛び込んでいった。
尻尾が肩をかすめ、
大きな羽が私の額を切って、過ぎていく。
でも、そのどれも気にならなかった。
私は持っていた大剣が届く距離まで近づくと、
ただ、力の限り振り下ろした。
手ごたえを感じる間もなく、すぐにまた持ち上げ、
また振り下ろす。
それを二回ほど繰り返したとき、
飛竜のクチバシがまともに私の横腹に直撃して、
私を横へとなぎ倒した。
さらに、地面に叩きつけられそうになった寸前、
今度は、下から跳ね上がってきた尻尾が胸に食い込み、
私は宙に浮かんだ。
そのとき、飛竜と眼があった。
さっきまで焦点のまったく合っていなかった黄色い眼が、
私の姿を捉えたとたん、ギラリと輝いて、燃えるように真っ赤に変色するのを、
私は見た。
受身の姿勢もとれず、ただ落下する私の体に、
飛竜は大きく吼えながら、体当たりしてきた。
直後、ズドンと、鈍い音がして、全身に痺れるようショックがはしり、
私は後ろにすっ飛ばされて、大木に当たって下に落ちた。
体の中のものが全部出ていきそうな、ひどい気分で、
視界がグラグラと揺れた。
立ち上がったのは本能だったが、足は一歩も動かなかった。
ああ、やっぱりだめだった。
これが、私の限界だったんだ。
そのとき、飛竜の口がバチッと火花を飛ばして、
灼熱色に燃えはじめた。
私は真っ白になった頭の中で、それを呆然とただ、見つめた。
できるだけのことはやった。
もう、仕方ないよ。
そして、頭を下げ、眼を閉じようかと思ったそのとき、
視線のすぐ先に、弟の動かなくなった体があった。
決意して、まっすぐ前を向いたままの弟が、
私の方を見返していた。
もう諦めるの?
密林を守るんじゃなかったの?
弟に、そう言われたような気がした。
終われない。
そう、思った。
これで終わることなんて、絶対できない。
だって、もし、このまま終わってしまったら、
たとえ死んでも、弟とは、とても顔を合わせられないぞ。
そのとき、空気の中をバチバチッと火花が走っていった。
私は、とっさに大剣を平らにかざして前へ飛び出した。
ワッと、熱風が押し寄せ、真っ赤な炎が渦を巻いて向かってくるのと、
私が弟の体の前に少しだけ出るのとが、ほとんど同時だった。
私は両足でしっかりと大地を踏みしめ、歯を食いしばった。
やってやる!
こんなところで、終われるもんかっ!
見ていろよ、弟っ!
私は全身の痛みを、胸の中から湧き起こる、強い感情の中に押し込めて、走り出した。
これで、決着だぁーっ!
これは、一人のヒーローの物語。

