お金を届けたら。
小学生のときに拾った、大量の一万円札 ほどでは
ないけれど、私はそれ以外でも、
これまでに、けっこう、お金を拾ったことがある。
誰もがそうなのかは、わからないけど、
私の場合、お金が落ちているのを見つけると、
まず、最初は驚いて、
次に、ものすごく興奮するんだけど、
すぐに、ちょっとだけ冷静になって、
さて、どうしよう、と思う。
だってさ、お金だもんなあ。
もちろん、拾って、交番に届ければいいんだろうけど、
それも時と場合と、金額にも、よるような気がする。
拾ったといっても、例えば、それが十円玉一枚だったとしたら、
それを、わざわざ交番にまで持って行く人なんて、いるだろうか。
うーん、いないだろうなあ、やっぱり。
たとえば、私は道に千円札が落ちているのを見つけたことがある。
いきなり、ふつうに一枚だけ、道に落ちていたんだ。
さて、問題はここから。
見つけたのはいい。
うん、少なくとも、
誰かが見つけているのを、見つけるよりは、ずっといい。
ちょっとだけの優越感と、ちょっとだけの幸運を、私はかみしめる。
でも、これを、どうしたらいいのか、となると、悩むんだよぉ!
金額は千円だ。
うーむ。
まず、考えるのは、拾うべきかどうか、だと思う。
もちろん、自分の気持ちに正直になれば、これは拾いたいんだけど、
でも、こんなに無造作に落ちているとなあ。
誰かが電柱の陰からとか見てないかしら、とか、
少し冷静になった私の頭は、ついつい、考えてしまう。
あと、本当に誰かが、誤って落としたものだとしても、
拾おうとしたとたん、落とし主がヒョコッ、と現れて、
ちょうど目なんかが合ってしまって・・・・・・、
「あっ・・・・・・」
なんてことになったら、ううっ、絶対、私は耐えられないぞっ!
で、そんなことを、色々と考えているうちに、
気がつくと私は、千円札の前でうーん、うーん、と唸っていたりする。
それで、結局は、拾うのをやめてしまって、
名残惜しい気持ちでいっぱいなのに、
精一杯、虚勢だけはって、振り返りもしないで、歩き去ってしまったりする。
わーん、私の意気地なしっ!
偽善者ーっ!
財布を拾ったこともある。
ああー、こういうのも、ほんっとに困るっ!
ただ、お金そのものがポツン、と落ちているのを見つけるよりは、
少しだけ、気持ちは楽だ。
とりあえず、拾う。
そこまでは違和感はない。
問題は、その中を見るかどうかだ。
だって、拾うだけなら、それはまだ、ただの好奇心と親切心からの
行動と思ってもらえるだろうけど、
そこから先の中身に関しては、完全に他人のプライバシーだ。
一番いいのは、中を確認したりはしないで、
そのまま交番に届けることなんだと思う。
うん、まあ、そうだよね。
でも、好奇心が、私を誘惑するんだ。
心の声が言う。
持ち主が分かれば、警察に届けるまでも、ないかも知れないぞ。
ふむふむ。確かにその通りかも知れない。
で、さらに、こう囁く。
落とし主はきっと、すごく困ってるぞ。一刻も早く返してやるなら、
警察にとどけないで、直接届けてやったらどうだ。
あー、確かにそうかも知れない。
で、悪いと思いつつ、私は見てしまう。
ただ、少しだけ言っておくと、私の拾った財布は、
きっと、皆さんがイメージしただろう財布とは、かなり違う。
革張りで、見るからに高級感が漂っていて、
パンパンに膨らんでいたり、はしない。
上からはお札が束になって入っているが見えていたり、もしない。
その財布はガマ口で、すり切れかけた布製で、
持った瞬間、チャラチャラと中で音がして、
手のひらに収まるくらいのサイズで、しかも、とても軽い。
で、私は中を開ける。
入っていたのは、近くのスーパーのレシート。
十数枚の小銭。
そして、一枚の千円札。
また、千円札っ!
私は仕方なく、交番に届ける。
だって、持ち主と思われる証となるものが、何も入っていないんだもん。
もちろん、もう一度地面に置いて、そのまま去りたい衝動に
何度も駆られる。
でも、なんとか近くにあった交番へそれを持っていく。
警官は、「財布を拾いました」、と言う私に、
少し前屈みになって、興味を持つ。
でも、その拾ったという財布を見せると、かなり興味をなくす。
警察官も人の子で、私とあまり変わらないな、と私はあとで思う。
拾った場所や、経緯を聞かれる。
名前と住所と、電話番号を聞かれる。
連絡先と、身分を証明するものはあるか、と聞かれる。
私はうんざりしてくる。
そして、交番で、二人の警官に、ほとんど事務的に
どんどん質問を投げかけられるこの状況に、
ちょっとだけ、恐ろしくなる。
最後に書類を出される。
そこに、住所や名前を書き込んでほしいといわれる。
持ち主が現れたら、知らせるから、と言われる。
「知らせてくれなくても、いいです」
と、私は言いたかった。
でも、なんだか言いそびれる。
交番で、警察官を前にして、
自分の名前と住所を書く経験は、ぜったいに、これで最後にしたい、
と、心から思う。
たしか、私は財布を拾って、それを届けにここへ来たはずなのに、
外に出た私の心は、晴れやかどころか、曇っている。
そして、誓う。
もう、ぜったい、財布なんか拾わないからなっ!
だから、私は皆さんに心から忠告したい。
お金なんて、拾ってもいいことは、決してないんだよっ!