壁紙のカタログ。 | 初心者同志

壁紙のカタログ。

自分の好みをはっきりと正直に伝えることは、悪いことではないんだなあ、と

私はしみじみ思ってしまった。


ずっと以前の話ではあるけれど、

実家が新築されることになったあるとき、それぞれの部屋の壁紙を

どんな壁紙にするのか、自分たちで決めることになった。


そのとき、「これ、よかったら参考にしてください」と、建築家の人が

持ってきてくれたのは、何冊もの壁紙のカタログだった。


それは、座布団の代わりとしてとして使えるんじゃないか?というくらい大きなサイズの本で、

世界中の知識が載っているのかと思うくらい厚かった。


どうして、ただのカタログがこんなに重いんだろう、という疑問は、

中を開いてみて、すぐにわかった。


そのカタログには、部屋の壁に使ったらこんな感じになりますよ、という

実際に壁紙が使われている部屋の写真と共に、その壁紙の実際のサンプルが

本の中に直接、貼り付けられていたのだ。


そもそも、ただ壁紙といっても、その種類は描かれている模様の

違いだけが全てじゃない。

使われている材質や、それによって生まれる質感によっても、

全く違った壁紙として区別がされるのだ。


だから参考にするカタログにも、当然、実際のサンプルが必要になるというわけ。


うーん、納得。


というわけで、当時、もともとは、


「部屋屋の壁紙なんて、どんなのでもいいや!みんなに任せるから」


なんて言っていた私は、そのカタログを見て、一瞬にして心変わり!


壁紙のデザインもそうなんだけど、なによりもそのときは、

これまで見たことのなかった、その「壁紙のカタログ」という本の存在に

魅せられてしまったのだ。


それで、新築する家に使う壁紙を一通り選んだあとも、

自分の部屋にそのカタログを全冊持ち込んで、延々と一人で読んでいた。


建築家の人にそのカタログを返す期日が来たときも、

返すのが惜しくて、

「この本面白いですね、個人でも買えるんですか?」

なんて訊いたり(業者専用と言われた。)

「使わなくなったら貰えませんか?」

なんて、無理なお願いをしたりしたくらい。


そのときは建築家の人に笑いながら、


「じゃ、いつか古くなって使えなくなったら持ってきてあげるよ」


なんて言われたんだけど、もちろん、当時の私は、そんな筈はないよなあ、

大人の礼儀で言ってくれたんだな、とわかっていた。


だから、それから数年後、本当にその人が、その時の言葉を

覚えていてくれて、そのとき読んだカタログとは別の本ではあったものの、

実際に私のために本を持ってきてくれたときは、しばらく言葉が出ないくらい、

感動してしまった。


ああ、自分の本当の気持ちを相手に伝えることって、悪くないなあ、と、

そのとき、本当にしみじみと思ったのだった。