水泳試験。
私の通っていた小学校にはプールがなかったので、
水泳の授業は毎年、市民プールを貸しきって
全校生徒で一斉に行うという、かなり派手なものだった。
みんなでお揃いの水泳帽子に、水泳水着という姿で、
広い市民プールがすべて埋まっている景観て、すごいんだよ。
ほとんど、夏の水泳大会。
ドキッ、とするものは、なにもないけどさ。
面白いのは、学校の全生徒が集まるということで、
水泳の授業は、学年ごとに行われるんじゃなくて、
水泳の技量別に行われること。
ちゃんと、この授業用のガイトブックみたいなのがあって、
私たちは最初に必ず、それをもらう。
そこには、これができたら次のステップに進めますよ、という
水泳の技術に関する項目が並んでいて、
それをクリアするために必要な、規定ラインが書いてある。
たとえば、最初は
「水に顔をつけて三十秒我慢しましょう」
なんて書いてあるんだ。
それができると、次の項目。
「水の中で目を開けたまま、物を拾ってみましょう」
それで、私たちはそれに挑戦して、成功すると、
先生からハンコを貰って、次のステップに進むことができるってわけ。
広い市民プールのあちこちでは、場所ごとに、そういった試験が行われていて、
私たちはアトラクションをクリアしていくように、
それを一つ合格しては、次の場所に進んで、また挑戦する、
というシステムになっていたのだ。
「でも、だからって、顔にただ水をつけるだけが、授業になってるなんて!」
と、思うかも知れないけど、
大勢いれば、水が苦手な生徒や、息が止められない生徒も中にはいるものだから、
それがどうしてもできなかったりする人は、
その場で何度も練習することになるんだ。
クリアするまでは、決して次には進めないんだけど、
逆にいえば、それは、クリアできるようになるまでは、
その場所でずっと、先生に見てもらいながら練習できる、て、ことでもある。
そういう練習は、ちゃんと、市民プールの小さい子供が遊ぶためにある
浅い場所を使って行われているから、
そういう人たちにとっても安心なんだ。
当然、次に進めば進むほど、挑戦することも難しくなっていく。
最初は、
「膝を抱えたまま、水中で一回転しよう」とか、
「三十秒間、足をつかないで浮きつづけよう」なんて、
基本的なことが中心なんだけど、
じょじょに、それも本格的な泳法の練習へと変わっていく。
「クロールで十五メートル泳ぎましょう」、とか。
「バタ足以外で十五メートルプールを一往復して、戻ってきましょう」、とか。
そんな中でも、面白いなあ、と思ったのは最終試験だ。
いくらアトラクションみたい、といっても、
基本的に、これが授業であることには、もちろん、代わりはない。
だから、やっている私たちも、教えている先生もみんな真剣だ。
でも、少しだけ違うのが、最終試験に合格した場合。
なんと、最後まで試験を合格した生徒は、
そんな、みんなが真剣にやっている授業の間も、
ずっと好きなように泳いでいてもいい、という特権がもらえてしまうんだ!
しかも、普段小学生が泳ぐことは禁止されている、
大人用の、足がつかないような深いプールを使って
自由に泳ぐことまでが、許可されている。
これは、元々みんなの試験のために、
プールの他の場所がすべて埋まっているから、
という理由も、あったみたいだけど、
当時小学生だった私たちにしてみれば、
それはとても眩しい、価値あるご褒美だった。
私は、水泳には自信があった。
ずっと泳いでいろ、といわれれば、小学生だった当時から、
体力のつづく限りなら、いつまでだって泳いでいられる自信があったし、
ターンや潜水もまったく問題なし。
だから、当然、狙うは、最終試験合格!
・・・・・・の、つもりだったんだけどさ。
そもそも、最終試験の内容が、
泳法は自由。ただし、すごい長距離を休まず泳ぎつづけること。
だということは、もらった練習のノートを先読みした私は既に知っていた。
それで、お、これだったら、問題ないぞ。
合格して一気に、これからの水泳の授業は永久に自由時間だな!
わっはっは。
なんて、思ったんだけど・・・・・・。
そんな意気込む私の前に立ちはだかった、この試験。
「背泳ぎで、五十メートル泳ぎましょう」
ふむ。私は、クロールは得意だ。
平泳ぎも問題ない。
バタフライだって、水泳の授業の項目にはなかったけど、
やってみたら簡単にできてしまって、先生に褒められたりした。
でも、背泳ぎだけは・・・・・・。
なぜか、背泳ぎだけは、どれだけ練習しても、うまくならなかったんだ・・・・・・。
泳ぎ始めても十メートルくらいまでは問題なく進むんだけど、
何故かいつも、そこから突然、ブグブクブク・・・と沈んでいっちゃうんだ!
仰向けの体制だから、沈むと鼻と口から、水が滝のように流れ込きて、
気分はちょっとした臨死体験・・・・・。
うがっぐっがっ、ブクブクブク・・・・・・。
わーん、また水飲んじゃったよーっ。
それで、結局、小学生の間には、
最終試験を合格することができずに、終わってしまったのだった。
ううっ。
ああ、背泳ぎさえ、なければなぁ・・・・・・。