失恋。
ひと懐っこい犬というのは、あまり珍しくない。
あれって、初対面でも、嬉しそうにスリよってきてくれたりすると、
なんだか、信頼してもらえたみたいで、こっちまで嬉しくなってしまうから不思議だ。
でも、これがネコの場合だと、どうなんだろう。
それも、飼い猫じゃなく、街を普通に歩いている猫だ。
人になついている野良猫って、私はちょっと、珍しい気がする。
そういえば、ここで紹介したネコ も、私が近づいっても全く逃げようとしない、
不思議なネコだったけど、そんな不思議なネコとの体験が、
実は、私にはもう一つあるんだ。
あるとき、道を歩いていたら、見たこともないネコに
突然、足元に擦り寄られたことがあった。
そんなこと、今までなかったから、さすがにびっくりしてしまった。
な、なんだろう、一体。
何か、美味しそうな匂いでも、私からしたのかなぁ。
と思ったんだけど、心当たりはないし・・・・・・。
一応、お風呂にもちゃんと入ってるんだけどなあ。
ポケットに食べ物が入ってる、てわけでもないし・・・・・・。
で、結局心当たりになるものは、なにも思いつかなかったんだけど、
でも、ネコのほうは、相変わらず私に興味があるみたいで、
私の足元から、どうしても離れようとしなかった。
なんだか凄く気になったんだけど、そのとき用事を抱えていた私は、
仕方なく、そのまま、その場を立ち去ろうとしたんだ。
けれど!
なぜか、そのネコは、そんな私の後ろを、トコトコと、そのまま着いて来たんだよっ!
う、なんだろう。
どこかの飼い猫なのかなぁ。
でも、周りをちょっと見渡すのだけど、飼い主らしい人は見当たらない。
うーん、困ったぞ。
だってさ、このまま着いてこられたら、私はこのネコを誘惑したも同然だ。
これじゃ、誘拐犯になっちゃうよ。
もし、次にこの道を通ったときに、電柱に、
「うちのネコ探しています」
なんて張り紙がしてあったりしたら、責任は全部私にあることになっちゃうぞっ!
かといって、これが言葉のわかる人間の子だったら説明すればいいんだけど、
相手は猫だもんなあ。
着いてきちゃダメだよ、なんて言葉でいっても通じないしさぁ。
なんとなく、乱暴に追い払うしかないかなぁ、と思ったんだけど、
そのネコも、まだ体が小さくて、
しかも、まるでそんな私の心を読んだみたいに、
ふと小首をかしげるように私の顔を見上げたかと思ったら、か細い声で
「ニャー?」
なんて鳴きはじめたんだよ。
うっ、かわいい。
だめだ。
とても乱暴になんてできん。
かといって、このままだと私も、ここから立ち去れないぞっ!
ああ、もうっ!
飼い主はいったいなにしてるんだ。
こんなかわいいネコを、ひとりにしてーっ!
それで、どうすることもできなくて、
しばらくは、そのネコと、そこでじゃれあって遊んでいたんだけど、
さすがに、ずっとこのままでいるわけにもいかないし、
そろそろ本格的に困ってきたぞお、なんて思っていたその矢先!
そのネコが、とつぜん、クルリと、身体の向きを変えたかと思うと、
まるで何もなかったかのように、
最初に近づいてきたのと、まったく同じようなのんびりとした足取りで
そのまま、どこかに去っていってしまったのだった。
助かったぁ。
助かった、んだけど!
いったい、今のってなんだったんだ!?
なんだか、まるで恋人に、一方的に別れを告げられて、
その気まずさに、走って立ち去られたみたいで、すごく、すごく悲しかったのだった・・・・・・。