手。
部屋を散らかすのは得意なんだけど、
それを片付けるときのことを考えると、憂鬱だよなぁ
という声を、結構、周りからも聞くんだけど、
なぜだろう、私は全然平気だ。
むしろ、もっと掃除したり、きれいにしたりする機会がないかなあ、
と思うくらい。
あるとき、知り合いの人に頼まれて、人手が足りないというので、
ある料理店の皿洗いを手伝いに行ったことがある。
私はそういったバイトそれが初めてだったので、
その知り合いの人に予め、注意事項を聞いておいた。
それによると、
初めて会う人たちばかりの中に、ただ一人、
しかも一時的なお手伝いとして入っていくってことは、
結構大変なことだから、気疲れしたりすることもあるかも知れないけど
それは覚悟しておいたほうがいいよ、
ということだった。
のだけど、私は全然そんなこと気にならなくて、
むしろ大好きな洗いものができるということで、あまりに楽しくて、
ほとんど一日中、ニコニコしながらやってしまった。
で、あまりに楽しそうなので、
ちょうどそこを通りかかった従業員たちには気味悪がられて、
あとで聞いてみたら、
「何か変なやつがいるなあ」
「なにがそんなに楽しいんだ?」
「世の中には色々と変わった人間もいるもんだよ。触れてやるなよ」
なんて言われてたらしい。
くそっ、私は普通だいっ!
ただ、プロの人たちが働く職場というのは、やっぱり普通と違っていて、
洗いものに使う洗剤なんかも専用の特別なものを使っていたりして、
それを使って本当に汚れがよく落ちるのを見たりできたのは、
やっぱり楽しかった。
調理用に使っている鍋なんて、水の上に浮かべたら
大人一人くらいは軽く乗せて進めそうなくらい大きくて、
洗うのは一苦労なんだけど、きれいにするとすごい満足感がある。
長年使っている間についた墨汚れなんかの落とし方も教えてもらったりして、
その時のお手伝いは、私にとってはとても充実した時間になったのだった。
ただ、少し困ったのが私と一緒に洗い場を担当していたパートのおばさん。
とつぜん私の手をとったと思ったら、
「あら、あたなきれいな手をしてるのね」
とかいうんだぜ。
洗い物なんかしてると、手はどんどん荒れてしまって、
それってこういう仕事をする人たちにとっては、かなり悩みの種みたい。
で、そのおばさんは、私の手を見て少し羨ましかったみたいだ。
でも、手がきれい、なんていわれたのは初めてだったから、実感がなくて、
へぇ、これがきれいな手なんだ、て、
そのときは、自分でも驚いたくらいだった。
ただ、そのおばさん、褒めてくれたのはいいんだけど、
手をつかんだまま、なかなか離してくれないのは困っちゃった。
なにか今にも私の手を切りとって自分の手と付け替えそうな勢いなので、
私はあわてて、
「洗い物をつづけないといけいので!」
といって、それから逃げだしてきたのだった。
だって、目が真剣なんだもんなぁ。
そのあとの休憩時間、きれいな手て、どこの辺りのことを見てそういうのかなあ、と
自分の手をかざして、いろいろと見ていたら、
そこをちょうど通ったお店の従業員と目が合ってしまって、
ちょっと気まずくなってしまった。
わ、こらっ。
ちょっと、その、
「見てはいけないもの見てしまった」
みたいな顔はやめろくれっ!
私はなにも変なことしてないぞ。
だから、足早に立ち去るな!
その愛想笑いを返すのはやめろーっ!
何となく、気疲れするかも、て最初にいわれた言葉の意味が、
それでわかった気がしたのだった・・・・・・。