小さい時、
年子のお姉ちゃんの目の下には、
いちご状血管腫という
赤いほくろのようなものがあった。
今になってその赤いほくろの本当の名前を知ったけど、
小さかった私にとってそれは「赤ぼくろ」だった。
私には黒いほくろしかないのに、
お姉ちゃんはすごいなと、感心していた。
だけどその赤ぼくろは、
おばぁちゃんにも、お母さんにも小さい時にあったという。
それを聞いた私は、生まれてきて初めて
すごく大きな不安を感じた。
私だけその赤ぼくろがなかったからだ。
目をこらして体中を探した。
私は必死だった。
だって赤ぼくろは、うちの家族のしるしだったから。
けれど、私にはそのしるしがなかったのだ。
赤の油性ペンで私は赤ぼくろを書いた。
書いては消え、消えては書いて。
お姉ちゃんの赤ぼくろは、
歳を重ねるほど薄くなり消えた。
私の不安も同じように消えて、
赤ぼくろがなくなった頃には、そんな不安も忘れていた。
9歳になって、妹が生まれた。
生まれた妹の肩にはまた赤いほくろがあった。
私はあの不安を思い出し、少しだけ笑えた。
私は少し大人になっていた。
昨日、おばぁちゃん家で湯船に浸かっていたら
右胸の上に今までなかったなにかが肌にできていた。
それは紛れもなく赤ぼくろだった。
家族だという証をもらえたような気がした。
少し泣いて、少し笑った。
私はまだ、子供だった。