あああ…


自分の仕事がたまりつつあるんですが、


みなみなさまにおかれては、ご健勝のことと存じます。


もうそこここで桜が咲いてますねぇ。


もうちょっと、この、今のこの瞬間を、大切に生きたいものだと思う季節であります。



※   ※   ※   ※



で、このところ続けていた女の子の話をします。


2度目の審判ということになります。


もう、場面は審判廷です。





※   ※   ※   ※




「それで、君も被害者に対して暴行を加えたのかな?」


「 … 」


「君やほかの子の供述調書を読むと、車にバットや木刀を積んであったそうだけど」


「 … 」


「離れて見ていただけの子もいたようだけれども、君はどっちだったんだろう?」


「 … 」


事件のことは、もう何を聞いても答えたくないようでした。


捜査段階の供述調書では、一応、ほかの子や被害者と話が符合する内容を話しているようです。


審判の冒頭でも、事実については「そのとおりです」と言いました。


事前の調査官からの話でも、否認というわけではないようです。




たんに、こういう、裁判所とか、そういった場面がイヤなんだ…




そう思いました。


話さないことで抵抗しようというわけでもなさそうです。


隣には、前回の審判と同じく、おばあちゃんが座っています。




「あのう…おばあちゃんの方では、お孫さんの処分について、なにか意見はないですか?」



おばあちゃんが顔を上げました。



「意見でなくてもいいんですけど。お孫さんに話しておきたいこととか、なんでもいいんですが…」


「あのう」


「はい」


「信じていたんですがねぇ」


おばあちゃんは、ため息をつきました。








お孫さんは、以前、きょうだいと同居していたころ性的ないたずらをされたりしたことはありませんでしたか?




よっぽど、くちに出そうかと思いましたが、やめました。


だいたい、調査官にだって話さなかったんだし。隣に少年本人がいるし。


仮に、ここで話してくれるとしたって、だから処分を変えられるというのか?






それにしても、こんなに話をしないなんて、これって女の子だから??


それとも、自分の審判の仕方が下手だから??


でも、かりに何にも発言しなくたって、手続は進められる…それは少年も刑事も同じなんだから…いいのかな??


今まで、男の子でここまでくちを閉ざしたやつはいなかった…


やっぱり女の子だからなのかなぁ~


そういえば、前回担当の調査官だって、女性だったけど、コミュニケーションむずかしかったって言っていたから、少なくとも、質問する側が男だろうが女だろうが、やっぱりこの手の子はしゃべんないんじゃないかな…



いずれにせよ、今回の処分は、少年院送致以外あり得ない…





そんなことあんなことを考えつつ、


「以上で手続を終えて、これから処分の言い渡しをしようと思いますが、最後に何か言いたいことがありますか?」


と、いつもどうりの最後の質問をしました。


わたしにとっては、もう慣れた型どうりの進め方です。


少年の最終陳述があってもなくても、そのまま決定を告知します。



すると…









「どうせ少年院だろう? わかってんだよっ!!」


彼女がそれまでの態度とうってかわって大声を出しました。





「知ってんだよお!

カンベツの連中が荷物を持ってきてくれていりゃあホゴカンなんだろう?

手ぶらだったら少年院なんだろう?

知ってんだよお!

今日は荷物持ってきてくれてねえじゃねえかっ!!」





彼女はそこまで叫ぶと、わたしを睨みました。






おおっ…!


そんな噂があったのか…


噂じゃなくてホントなのかな…??


気にしたことがなかった…


たしかに、審判までに調査官の意見はできている。


それをもとに審判している。


しかし、


いつも、調査官の意見どおりの結論になっているわけじゃないんだ…


そこの出発点は、君の場合もほかの子の場合も同じなんだけど、


君の審判では、調査官の意見を採用しないでほかの結論にするだけの理由がないんだ…



と、全部心の中で思いました。思ってから、


彼女は裁判官が動揺したと思ったかな?


と気になりました。


気になりましたが、「では、決定を言い渡します。主文…」


と続けて、調査票にあったとおりの結論を告げました。




彼女は、また無表情に戻り、彼女の大声で立ち上がっていた主任調査官や鑑別所職員も腰をかけました。