「例の中3の女の子のことですが…」


主任調査官が相談に来ました。


「まったく、この、なんというか…意思疎通ができないというか…」


「やっぱり」


「まだ審判までに会いに行こうと思ってますが…ちょっと…」


「そうですか~」


「それでも調査票は書けそうです」


「はい」


「ただ、相談というか…ご報告なんですが」


「はいはい」


「あの子…歳が離れたきょうだいがいましたね」


「えっと…兄と姉…所在不明の」


「ええ…ま、所在はわかってるんですが、連絡がとれない」


「ああ」


「詳しくはわからないんですが…そのう」


「…?」


「少年がですね、きょうだいから性的虐待をうけたって…ちょっと、言うんです」


「…!」


「くわしくはわからないんですが」


「性的虐待って…?」


主任は、首をすくめて 「詳しくはわかりませんが」 と繰り返しました。


そこを強調するってことは、ちょっとまだ話が曖昧ってことか…。


わたしにとって、調査官からそういう話が出てくるのはその時が初めてでした。



ん~ 小説やなんかならまだしも…


現実にそういう話が少年の口から出てくることがあるんだ…


…でも…


「それって、どこまで調査したもんですかねぇ」


思わずそう言いました。


主任は「まあ、そこんとこ、ジェイさんの意見きいとこうと思って…」と言いました。




立ちつくしました。




ああいった子が調査官にそういうこと言うのには、なんか意味ありげだよなぁ…


ホントにそういうこと、あるんだろうか…


…でも…


仮にそれはホントにそうだとして…


それが、今回のあの子の処遇にどれだけ影響する事情なのかなぁ…


いま、学校に行かずに、とりまきの連中についてまわって、「つつもたせ」めいたことして強盗傷害した子の処遇…


「つつもたせ」に加担した原因が、過去の性的虐待を受けたことに??


そうだとして、それを理由に、少年を少年院に入れなくていいという結論になるか??




「まるで魚の小骨が喉に刺さった気分です」と主任調査官に言いました。


「ははっ…!」主任は苦笑いしました。







家事の調停委員の先生方の勉強会のようなものに出席して、講師を務めることがあります。


あんまり家事事件やったことないのに、このころ、ちょうど、そういう話が回ってきました。


「家事って、よくわかんないよー」


もう少年をやって2年目だったので、いっちょまえにそんなことコボしながら(←まるで少年事件ならわかってるふう…)準備します。


これは、テーマをきちんと絞ることと、ちからのぬき加減がコツです。


先生方に「ほう…」と思わせるくらいの内容レベル、しかし、ムツかし過ぎて眠られることのないような平易さ…






「そんなん絶対むりじゃん…!」





そう思いながら当日…


「あっ…あの先生、少年の付添人で来てくれたことあったなぁ」


その先生は、男性で、年の頃は60代ぐらい…真面目そうな眼鏡をかけていて、いつもスーツがびしっときまっているのが印象的でした。

あと、審判で、付添人の意見をあらかじめ書面で用意してきて、その内容がなかなか立派だったので、「審判で読んでくれませんか?」とお願いしたら、実際にはまるで違うことを少年に語りだして、その内容もまたよかった…声も良かったし、立ち居振る舞いもイイ…ので、とても印象に残ってました。


「そうか…あの少年友の会の付添人、調停委員も兼ねてるんだ…」


そう思いながら「いや~いつも少年やっているのに、急にこういう役を仰せつかって…10分程度しゃべるだけの内容しかありませんから…」とマイクで言うと、他の人はニヤニヤする中、その先生は「早く始まれ」と言いたそうにこっちを見ました。