以前のことですが、
とある施設に書記官と出張しました。
用事を済ませ、施設内を見学させてもらいました。
「裁判官、こちらの部屋も見ていかれますか?」
「見せてもらえるなら、何でも見ていきますが…差し支えあるところは別にいいんです。」
「こちらの部屋は、ほかの裁判官にはお見せしたことないんです。」
「じゃあ…いいですよ~」
「でもせっかくですから、ぜひ。書記官さんもどうぞ。」
???
なんなんだ。もったいぶっているのかな。
用事は済んでいるので、帰らせてもらってもいいんだけど…
係員は、ノックをせずに、ゆっくりとノブを握って、そおっとドアを開けました。そして、ささやき声で「どうぞ」と言いました。
一歩その部屋に足を踏み入れて、立ちつくしました。
殺風景な部屋でした。
部屋の中には、6人の人が居ました。
1人は坊主頭の少年です。部屋の中央におかれた椅子にかけて、正面を向いています。
もう1人は、その少年と向き合って正面のテーブルの椅子に座った施設長です。
少年の右側には、3人の男性が並んで別のテーブルについています。少年の方を向いていますが、3人とも目をつぶったり、腕組みをしたりしています。
左側にも、男性が1人座り、やはり少年の方を向いています。
わたし達は、部屋の後方のドアから入った形になり、少年の背中は見えましたが、表情は見えませんでした。
全員が無言です。
「ここは何の部屋だろう?」
「今ここで何をやっているんだろう?」
「自分らはほんとにこの部屋に入ってよかったのか?」
「みんなは自分らが部屋に入ったことに気づいているのか?」
係員が、部屋の後を指さしました。
壁際に、パイプ椅子が2脚ひろげてありました。
自分と…書記官の分…最初からここを案内するつもりで、椅子を用意してあったんだ…
足音もはばかられ、そうっとパイプ椅子に近寄り、腰掛けました。
ギイッ…
パイプ椅子のきしむ音がします。
しかし、目の前の6人は、身動きさえしません。
なんなんだ…
これからなにか始まるのか?
それとも、なにかやってる最中なのか?
やがて、3人並んだ男性の一人が口を開きました。
「君の言っていることは、どうも意味が解らない」
少年は黙っています。
「解らないのはこっちだよ」とわたしは内心思いました。
一体なんだこれは。
空気が張り詰めています。
また沈黙の時間が流れました。
なぜ誰もしゃべらないんだ?
これからどうなるんだ?
帰りたい…