通りすがりさんにコメントをいただいたとおり、最近、刑法が改正されています。
前回からのお話は、とりあえず、平成16年までのお話として、読んでください。
※ ※ ※
審判では、前にもここで書いたとおり 、初めに事件のことを少年に尋ね、次の段階で要保護性の審理に入ります。
場面は、すでに後半にさしかかっています。
裁 「ご両親の方で、お子さんの処分に関するご意見はありませんか?」
父母「 … 」
裁 「せっかくきていただいているので、なにかご発言があれば、この際なんでもうかがいます。」
父 「あのう…」
裁 「はい?」
父 「わたしの知り合いでも少年院に入ったことがあるヒトっているんです。」
裁 「はい」
父 「でも、悪くなって出てきたんですよ。ああいうとこって、結局、悪い子ばかり集められているでしょ? 自分より悪い子に染まってしまうんですね。かえってよくないと思うんですよねぇ。」
裁 「 … 」
父 「だから、そうなら、わたしどもの手もとで教育したいって、思うんです。」
裁 「 …そうですか。お母さん、いかがですか? とくにいいですか?」
母 「あのう…いま少年院なんか行っちゃったら、もう高校行けなくなっちゃうと思うので…やはり夫と力を合わせて子どもを見たいと思います。」
裁 (少年に向かって)「聞いていたかい?」
少 「はい」
裁 「君は、どういう処分がいいと思いますか?」
少 「 …ぼくも、立ち直ったところを見て欲しいので、試験観察か、保護観察がいいと思います。」
裁 「自分がやったことをよく考えてみても、そう思いますか?」
少 「はい。もう反省しました。」
裁 「君は、強盗致傷の罪で逮捕されて、家裁に来たね。」
少 「はい。」
裁 「強盗致傷罪って、法律上、どういう刑罰を受けるように定められているか、今まで誰かに教わったかな?」
少 「 … 」
裁 「もちろん、これは大人だったらの話だけどね。聞いてない?」
少 「はい」
裁 「法律に書いてある強盗致傷の刑罰、一番軽くて、チョーエキ何年ぐらいだと思う?」
少 「 … 」
裁 「勘でいいよ。…一番軽いってことだからね、強盗で、100円取ったとしよう。で、相手に怪我をさせた。怪我は全治3日。さあ、チョーエキ何年?」
少 「 … 」
裁 「ご両親どうですか? ご存知ないですか?」
父母「 … 」
裁 「もちろん、知らなくても仕方ないんですけど、これ、法律家の間じゃあ結構有名なんです。正解は、懲役7年。」
全員「 … 」
裁 「ところで君、ジョージョーシャクリョーって聞いたことある?」
少 「 … 」
裁 「これはね、例えば、犯人にとてもかわいそうな事情があったとか、そういう場合に、特別措置で、条文に書いてある刑罰をもっと軽くすることなんだ。」
両親の視線が裁判官に刺さっています。
もはや、裁判官からの質問ではなく、ただの説諭になっていますが、裁判官は続けます。
裁 「しかし、これも、いくらでも軽くすることはできない。これも法律で決まっていて、半分までしか、軽くしてあげられない。」
少 「 … 」
裁 「強盗致傷、軽くてチョーエキ7年。ジョージョーシャクリョーしても…3年と6か月。ここでね、裁判官や弁護士は『あっ3年6か月かぁ~う~ん』って思うんだよ。」
少 「 … 」
裁 「なぜだと思う?」
少 「 … 」
裁 「それはね、絶対に執行猶予をつけられないからなんだ。法律上、執行猶予をつけられるのは、懲役3年まで。それを超えてしまうと、実刑にしなきゃいけないルールなんだ。」
少 「 … 」
裁 「強盗致傷罪は、どんな事情があっても、実刑なんだよ。犯人がかわいそうだな~っていう事情がどんなにあっても、実刑。初めてやってしまった被告人でも、実刑。ほんとの最低でも3年6か月は刑務所に行ってもらう。」
少 「 … 」
裁 「君がやったことも、強盗致傷罪なんだ。そりゃ、最初から『強盗してやろう』とは思ってなかったかもしれない。でも、ひったくりして、捕まらないように暴力ふるって怪我をさせちゃえば、これも法律に強盗して怪我をさせた場合と同じだと書いてあるんだ。」
少 「 … 」
裁 「君は、自分がやってしまったことの意味を本当にわかっていますか? 自分がした犯罪の責任を、自覚できているのですか?」
少 「 … 」
裁 「もちろん、実刑っていうのは、大人の話。君は未成年だから、直ちにそうなるってわけじゃない。」
少 「 … 」
裁 「しかし、常識的に考えてみて…大人だったら絶対実刑…だったら…未成年だったら…どうなる?」
※ ※ ※
ふう…
これが、刑事訴訟の「ものさし」です。
今年施行の改正刑法では、強盗致傷の刑の下限が懲役6年になったので、これを情状酌量すると、懲役3年になり、執行猶予がつけられることになりました。
ただ…通りすがりさんが簡潔にコメントしたとおりで、簡単に猶予になるわけじゃあないでしょうねぇ…。
わたしは、このようなスタイルの説示というか、質問というか、ヘンな審判、よくやってました。
クドいくらい話すのは、少年だけじゃなくって、親にも伝えたいことだったからでした。
そうありたいと願ったわけじゃあないんですけど…こういった話を審判でする時は、まるで法律の権化みたいな感じですねぇ… (~_~;)
わたしは、家裁が別のものさしを持つべきであると考えています。
しかし、だからといって、
「少年の強盗致傷は、保護観察でいい」
などと単純に考えているわけでもないです。
被害者からみれば、
ひったくりの原付に乗っていた男が、成人だったか、未成年だったか、
そんなものは単なる結果論であって、遭った被害の実体は変わらないのです。
その、犯罪の責任を前提として、
それでも、なお、保護処分を選択してよいか? 選択すべきでないか?
そういう摩擦を抱えながら少年の処遇を検討する、それが家裁のものさしであると言いたい。
ここで、
強盗致傷だから、ハイ少年院!
えっ? いけない? じゃ検送?
なんて発想じゃあ、ものさしが地裁と変わらないじゃないか…と、そう言いたいのです。
そういう「ものさし」で、試験観察をみるならば…ということで、つづく!